麻生太郎氏が派閥で総裁選候補の縛りをかけなかったわけ 党内最大の“組織票”の行方は(2024年9月1日『AERA dot.』)

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自民党麻生派の夏季研修会で講演する麻生太郎副総裁=2024年8月27日
 9月12日告示、27日投開票の自民党総裁選では、最多の12人が出馬の意向を示し、これまでにない激戦・混戦が予想される。事実上、派閥の縛りがなくなり、各自の判断で候補を選ぶことができる。そんななか注目されるのは、いまだ派閥を継続している麻生派の会長、麻生太郎副総裁の言動だ。河野太郎デジタル担当相を支持する構えだが、派閥全体で一本化はしない。自らの影響力を残すための“保険”を他候補にかけているようにもみえる。キングメーカーにとっても難しい総裁選。政治ジャーナリストの安積明子氏に聞いた。
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「こういう大会を開いて、一致結束弁当みたいに縛り上げるつもりは全くありませんし、河野太郎もそれを期待してるわけでもありませんし、ぜひ皆さん、そういった気持ちをもって、志を同じくしているような人たちが、気持ちを是非、なるべく一致させてくれることが出来るのであれば、これに勝ったものはない、そう思っております」
 8月27日に横浜で行われた志公会麻生派)の研修会。党内唯一の派閥の領袖である麻生太郎副総裁はこのように、次期総裁選への出馬を宣言した河野太郎デジタル相を支援することを表明した。同時に派閥として縛りをかけず、他の候補を応援することも容認した。
■上川氏を「その気」にさせたのは麻生氏
 12人が立候補の意向を示している総裁選だが、出馬するには国会議員20人の推薦人が必要だ。衆参両院合わせて367人の“有資格者”がいる自民党でも、それを集めるのはなかなか難しい。
 たとえば総裁選出馬に意欲を示す上川陽子外相は8月28日、「支持と推薦の間にこんなに大きなギャップがあるということを、改めて実感している」と本音を吐露している。その3日前の25日には、「20人というものを超える支持をいただいているところだ」と自信をのぞかせたばかりだった。
 その上川氏を「その気」にさせたのは、麻生氏だった。麻生氏が今年1月に福岡県内で行われた講演で「俺たちから見てもこのおばさん、やるね」と持ち上げたため、上川氏は一躍、総裁候補に躍り出た。
 派閥の解体もこれを加速した。岸田文雄首相が今年1月に宏池会(岸田派)の解散を宣言し、清和研(安倍派)、志帥会二階派)、近未来政治研究会(森山派)が続き、茂木敏充幹事長が率いる平成研(茂木派)も政治団体の届け出を取り下げて「政策集団」になっている。
 こうして派閥による「制約」が解除される一方で、党内には特定の候補を持ち上げる力もなくなった。総裁選で勝利するためには過半数を獲得する必要があるが、候補乱立では1回目の投票での決着は極めて困難と見られている。しかも決選に残るには上位2位までに入らなければならないが、果たして誰が残れるのかはわからない。
 このように見通しが不透明な中で、“キングメーカー”も喘いでいる。自分が推す候補を勝たせるという時代ではなくなり、勝てる候補に乗っからなければならない。だから麻生氏は河野氏を応援しながら、派閥に縛りをかけなかったのかもしれない。
■派閥の票を「ばらす」
 現在のところ、志公会では、甘利明前幹事長ら4人が小林鷹之・前経済安全保障担当相を支持しており、山東昭子参院議長ら3人以上が上川氏を支持しているが、いずれも1回目の投票で勝ち残れるかどうかは微妙なところ。もっとも麻生氏が推す河野氏が確実に勝利する保障もないから、こうして派閥の票を「ばらして」いくつもりなのだろう。
 麻生氏が「敵」とするのは、麻生氏とキングメーカーの座を争う菅義偉前首相と、2009年に“麻生降ろし”の急先鋒を担ったと言われる石破茂元幹事長だ。次期総裁選を「最後の挑戦」とする石破氏と、菅氏が支持する小泉進次郎環境相は、「次期総裁」の世論調査で常に上位を占める。しかし石破氏は党内基盤が薄く、15年や21年の総裁選では出馬を見送った。
 来年7月には参院選が予定され、10月までに衆院選が行われる。その顔を選ぶ次期総裁選は、なんといっても国民にアピールできる存在でなければならない。
 そういう意味で43歳の小泉氏は、変化のイメージとしては最強だ。一方で党の役職や重要閣僚の経験のない小泉氏には、党内から不安視する声もある。
 総裁選は1回目の投票は国会議員票367票と地方票367票の計734票で決せられる。いずれの候補も過半数を取らなければ、上位2人の候補が国会議員票367票と地方票47票の計414票で2回目の投票を争う。決選投票では国会議員の意向がより反映されるというところがミソだろう。
 麻生派の54票は、まとまれば党内最大の組織票になるはずだ。果たしてその票は最終的にどこに向かうのか。まずは12日にふるいにかけられ、27日までに大方が決せられる。そしてその動向を、岸田首相や二階俊博元幹事長も注視する。自民党を支配するキングメーカーの座をめぐり、総裁選とは別のもうひとつの戦いは、すでに始まっているのかもしれない。
(政治ジャーナリスト・安積明子)


自民党に愛想を尽かした人たちがそれでも石破茂氏に期待する理由 「国民無視の反省を!」【2千人アンケート】(2024年9月1日『AERA dot.』
 
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自民党憲法改正実現本部の会合へ向かう石破茂元幹事長=2024年8月

 過去最多の候補者が名乗りをあげるとみられる、自民党の総裁選(9月12日告示、27日投開票)。AERA dot.は、次の総裁や自民党について意見を募る緊急アンケートを行い、約2000件の回答が寄せられた。「次の総裁にふさわしい人物」としてトップ3にランクインした石破茂氏(67)、高市早苗氏(63)、小泉進次郎氏(43)は、それぞれどのような人々に支持され、何を期待されているのか。忌憚(きたん)なき声の数々から、国民の間に渦巻く自民党への本音を読み解く。

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2千人が選んだ「次の総裁」人気トップ5は…

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 アンケートは8月15日から18日に実施した。設問は3問で、「自民党にとって次の総裁にふさわしいのはだれか」を選択式、「その議員を選んだ理由」「自民党に求めることはなにか」をそれぞれ記述式で尋ねた。

 AERA dot.のニュースサイトやSNS、メルマガなどを通じて回答を募ったところ、1939件の声が寄せられた。回答者の内訳は、男性が68.6%、女性が28.8%、その他が0.2%、回答しないが2.2%だった。

 候補者のうち最多の608票を集めたのは、石破氏。その後を、409票の高市氏、244票の小泉氏が追う結果となった。

 3氏はそれぞれ、どのような理由で支持されているのか。票を投じた回答者の属性やコメントをみると、三者三様の“カラー”が見えてくる。

■「父親譲りの物言い」が印象的な進次郎氏

 3位の小泉氏は、投票者の女性比率が38.5%と3人の中で最も高く、中には「世界に通用するルックス」(60代/女性)と爽やかな外見を魅力に挙げる人もいた。

 とはいえ、支持理由として圧倒的に目立ったのは、今の自民党に風穴を開けられそうな「若い力」だ。

「若いので何かと新しい改革をしてくれると思います」(40代/女性)

「若い小泉さんに総理になって頂き、派閥やしがらみなどのない自民党及び日本を作って欲しい。麻生さんなど年寄りは引退して頂きたい」(70代以上/男性)

「国民に嘘をつかないで欲しい。透明性のある政治をしてください。自民党を刷新する、若い年代の政治もみたいです」(60代/女性)

 裏金事件などを受け、麻生派以外の派閥は解散を決めた。しかし、重鎮たちが牛耳る権力構造からの脱却や、裏金問題の根本的解決には程遠いという不信感は根強く、若い小泉氏なら変えてくれるのではないか、という期待が高まっているようだ。

 さらには、

「父親譲りのハキハキした物言いで日本の未来を変えてほしい」(40代/男性)

「今の自民党を変えられるのは、お父さんと一緒でこの人しかいない」(60代/男性)

 などと、「自民党をぶっ壊す」をスローガンに“小泉旋風”を巻き起こした小泉純一郎元首相の姿を、息子の進次郎氏に重ねている人もいた。

■なぜか女性人気が低い、女性議員

 小泉氏とは対照的に、投票者の女性比率が19.6%と著しく低かったのが、得票数2位の高市氏だ。初の女性首相の誕生を願う同性からの支持を集めてもよさそうなものだが、むしろ共感を呼んでいるのは、保守派としての一貫した政治理念や国家観のほうにある。

愛国心に基づく国益を考えられる政治家だから」(40代/男性)

「国力を向上させ、国民を豊かにし、国防を充実させ、他国との外交もしっかり実行できる人物」(70代以上/男性)

「日本の為に、主張すべきことをきちんと仰る方で、何も出来ずにただ『遺憾に思う』ばかりの方とは違う」(60代/女性)

 特に、高市氏を支持する人が「自民党に求めること」として寄せた不満のコメントの数々を見ると、現在の自民党に生ぬるさや不甲斐なさを感じ、失望している“岩盤保守層”の姿が浮かび上がる。

「本当の保守政党になる事」(40代/男性)

「国民の生活を守れ、財務省に寄り添わず国民に寄り添う政治をしろ、日本の資源を守れ」(60代/男性)

「中国、韓国など他国に、はっきり日本の立場を伝える党になって欲しい!」(60代/男性)

「日本国民を大事にして欲しい。私利私欲しか考えないなら即刻議員を辞めてほしい」(60代/男性)

 だからこそ、“保守派のスター”だった故・安倍晋三元首相の後継者を自負する高市氏に、「良き時代の自民に戻ろう!」(60代/男性)と懐古の情を抱く人も少なくないのだろう。

■堂々のトップは、“背水の陣”のあの人

 そんな高市氏に200票差、小泉氏にはおよそ350票差をつけ、トップの得票を誇ったのが、今回の総裁選を“背水の陣”で臨む石破氏だ。「国民には人気だが国会議員には嫌われる」が定評の石破氏は、過去4度の総裁選で敗れたが、24日の出馬表明では「38年の政治生活の集大成として、これを最後の戦いとして全身全霊で臨んでいく」と決意を語った。

 石破氏を支持するコメントを精査すると、「自民党には期待しないが、石破氏には期待する」という姿勢の人が多いことに気がつく。

「既存の自民党と違う考えを持っていて、今までも隠すことなく発信してきたから」(60代/女性)

「ブラック自民党に染まってなさそう」(60代/男性)

「民衆との感覚が一番近いと感じる。長いものにまかれない、不正には一番遠い自民党議員だと思う」(50代/男性)

「主流派ではない人脈の幹部がトップになることで、自民党が挙党一致で国民のことを考えて政治を行うかを見てみたい。国民に人気がある人がトップになることが、今の自民党が国民に受け入れられる筋道だと思う」(70代以上/男性)

「石破さんを選べない体質が自民党の本質」(70代以上/男性)

■「議員になった理由を念書に書いて」

 自民党らしくないという理由で、自民党総裁に推されるのも皮肉な話だが、「石破総裁」を待望する人たちは今の自民党に何を求めているのか。

「自分の保身ばかり考えず国民の為になる行動を。政治屋が多すぎる」(50代/男性)

「防衛費の増大や保険証の廃止、マイナンバーカードの実質強制など国民の意見をまるで無視をしているやり方を反省してほしい」(60代/女性)

「議員になった理由がお金もうけ以外に何かあるのか、一人一人、口先でなく念書にかいて国民に見せるべし」(70代以上/女性)

「透明性の意味を辞書で引いて学んでほしい」(30代/男性)

 辛辣(しんらつ)なコメントがずらりと並んだが、もはや完全に愛想を尽かし、絶望している声も散見された。

「正直、求めることは何もない。ずっと裏切られて、金欲ばかりの姿を見せつけられた。もううんざり」(60代/女性)

「自ら下野、解党が一番だが、政治資金問題、統一教会問題をクリアできないのならば、総選挙で大敗してもらうしかない」(60代/男性)

 今回のアンケート結果が浮き彫りにしたのは、新総裁が誰になろうと、自民党は生まれ変わらなければならないという国民の切実な危機感だ。改革者に必要なのは、小泉氏の「若い力」か、高市氏の「保守の矜持」か、石破氏の「我が道を行く孤高さ」か、それとも……。

AERA dot.編集部・大谷百合絵)