<詳報>立憲民主党代表選に立候補した4人、政策の違いは? 候補者討論会(2024年9月7日『東京新聞』)

立憲民主党代表選が7日、告示され、野田佳彦元首相(67)=衆院千葉4区、9期=、枝野幸男前代表(60)=衆院埼玉5区、10期=、泉健太代表(50)=衆院京都3区、8期=、吉田晴美衆院議員(52)=衆院東京8区、1期=の4人が立候補を届け出た。投開票は23日の臨時党大会で行われる。
7日は日本記者クラブ主催の候補者討論会が開かれ、消費税、原発、安全保障、政治改革、野党共闘のあり方などについて、各候補者が考えを語った。記者クラブ側との主な質疑は次の通り。=敬称略(佐藤裕介、宮尾幹成)
日本記者クラブ主催の候補者討論会に出席した(左から)野田佳彦氏、枝野幸男氏、泉健太氏、吉田晴美氏=東京都千代田区で(須藤英治撮影)

日本記者クラブ主催の候補者討論会に出席した(左から)野田佳彦氏、枝野幸男氏、泉健太氏、吉田晴美氏=東京都千代田区で(須藤英治撮影)

◆「教育の無償化を訴える」「全国一律の最低賃金1500円に」

野田佳彦氏(須藤英治撮影)

野田佳彦氏(須藤英治撮影)

━具体的に何の政策を次の衆院選で訴えるのか。
野田 まずは、こぼれ落ちそうな人たちを支えるためのセーフティーネットをしっかり張り巡らしていく。特に物価高で困難を極めている人たちに対する、給付なども含めた対応が最低限必要になってくる。
枝野 医療・介護、非正規の公務員、一次産業などの担い手が重労働、低賃金、人手不足で、公共サービス自体の質が落ちている。こうした(分野の)賃上げは政治が決めなければできない。民間に求めるだけではなく、(政治が)自らやるべきだ。
泉 教育の無償化、地域経済・地域産業を伸ばすことを特に訴えたい。地域産業については再生可能エネルギー市場(を伸ばす)。住宅、そしてエネルギー関係、中小企業ともに潤う政策になる。教育の無償化はすぐにやれることだ。
吉田 教育に関しては、国公立大学の無償化を掲げたい。経済政策では全国一律の最低賃金1500円。これを実行する時に必要なのが中小企業支援、社会保険料の時限的な免除、それに(社会保険料負担で手取り年収が減る)「130万円の壁」の撤廃だ。

◆「危機に対応した経験ある」「決断力、人を見る目はある」

枝野幸男氏(須藤英治撮影)

枝野幸男氏(須藤英治撮影)

━立候補した思いと、他の候補にない強みは。
枝野 今回の立候補にはためらいがあった。自民党総裁選とほぼ同時期で、ガチの代表選をやらなきゃいけないだろうと。予定調和のようなぬるま湯のようなことをやってたら、それ自体が国民の期待を集められない。
 危機に対応した経験を持っている。一つは東日本大震災の時の官房長官、そして2017年の「希望の党」騒動。どちらもきちっと、100点ではないにしても対応することができた。それは自負している。
泉 最も厳しい党勢の中からの3年間を担い、政権交代前夜と言われるまで、党の候補者が約200名近くまで回復するところまでもってきて、地方でも自民党に勝てる環境を4月の(衆院補欠選挙でつくった。
吉田 リーダーに必要なことは全ての政策に精通することではない。その分野に精通した人は誰かという適任者を選び、そこの任に当たっていただくという、その差配ができることではないか。私は等身大で背伸びをしないが、決断力、そして人を見る目はある。
野田 2012の11月14日に当時の安倍(晋三)自民党総裁党首討論をやった中で、(衆院)解散を明言した。その結果、多くの同志を失う結果になった。痛恨の極みだった。
 だからこそ、政権を取り戻すため、今回は先頭に立たなければいけないと決意した。厳しい判断を積み重ねてきた経験がある。自分の後ろには最後に相談する人が誰もいない。その重圧と孤独に耐えてきた。その経験値を生かしていきたい。

◆「共産党とはともに政権担えない」「選挙協力は進めるべき」

泉健太氏(須藤英治撮影)

泉健太氏(須藤英治撮影)

野党共闘について。
泉 まず立憲民主党自身が独自の訴えをちゃんと国民に示していく。これが大事だ。共産党は裏金問題で高い評価を得た政党だが、やはり国家観、安全保障の考え方では、ともに政権を担うことはできない。
 国民民主党と連立を組むことは想定しているが、現時点でそれ以上はない。
吉田 一対一の構図を作るという意味で、選挙協力は進めるべきだ。
野田 単独でわれわれが政権を取れるならベストだが、そういう現状ではない。野党勢力議席の最大化を目指して、その上で自公の過半数割れに追い込むという基本戦略に立つべきだ。
枝野 野党間の連携が前面に出ると、そんな政党に政権を預けて何年間託しますと思っていただけるかといえば、それは違うと思う。
 安全保障や天皇制(の考え方)で共産党とは全然違う。できる部分は連携すればいいが、包括的な連携は難しい。国民民主党は労働者のため、働く者のための政治という共通点に立っているので、不断の努力で連携を強めていきたい。

◆「時限的な消費税減税を」「給付で低所得者を支える」

吉田晴美氏(須藤英治撮影)

吉田晴美氏(須藤英治撮影)

━消費税について。食料品の非課税、税率引き下げを検討すべきだと思う方は挙手を。
(※泉氏、吉田氏が挙手)
━吉田さんに。当面の経済対策として時限的にやるべきか、長期的な税制改革としてやるべきか。
吉田 時限的な立場をとっている。消費を喚起する3年間ということを考えている。(消費税は)収入が低い世帯には大変重い税負担になっている。(食料品は)まっすぐに家計に響いてくるところなので、これを検討するという立場だ。
泉 低所得の方ほど、本当に日常生活の中で大変な思いをしている。給付付き税額控除で、中低所得者のみに戻しができるようにというのが一つの考え方。同じような効果を持つのがやはり食料品の(税率)軽減だ。
━枝野さんに。中長期的な税のあり方として税額控除を考えた方がいいという意見か。
枝野 中長期的には戻し税の方が間違いなくいいと思っている。複数税率を維持、拡大すれば、インボイスが中小零細事業者には多大な負担をかけるが、複数税率だからやらざるを得ない。早くインボイスをやめないと、本当に中小零細事業者は困る。
 消費税を下げても焼け石に水。だとしたら、給付で低所得者の皆さんをしっかりと支えるべきだ。
野田 基本税率を下げることで税収が落ちる。1回下げたら、戻すのも大変だ。軽々にそれでいいですとは思わない。食料品(の税率)を下げるためのいろんな努力をやるべきだ。

◆「原発ゼロは党是」「再稼働を一切認めない立場には立たない」

野田佳彦氏の基本主張は「政権をとる!! その先頭に立つ。」(須藤英治撮影)

野田佳彦氏の基本主張は「政権をとる!! その先頭に立つ。」(須藤英治撮影)

━最終的には原発ゼロにするという目標を掲げ続けるべきだという方は。
(※枝野氏、泉氏、吉田氏が挙手)
東京電力柏崎刈羽原発7号機の再稼働を認めるべきだ、検討すべきだという方は。
(※泉氏が挙手)
━ゼロを目指しながら再稼働。これだと進まないのでは。
泉 進みますね、確実に。原発というのは安全対策の審査、地元の同意、また避難計画。こういったものを全部満たさなければ当然稼働できない。すべてをクリアしたものを動かすというのは、あっていいことだ。
吉田 できないと言っていたら、いつまでもできない。原発のない社会を目指す。これは立憲民主党の党是でもある。
野田 (首相時代に)大飯原発3号機、4号機を再稼働させて、官邸がいつもデモ隊に囲まれる経験もしている。理想を掲げながらどうやって現実の政策を進めるか、という立場でいきたい。
枝野 「原発に依存しない社会を目指す」ということを強調した方がいい。ゼロを目指すと言ってしまうと、明日にでも全部なくなって安全になるかのような誤解を与える。
 経済産業大臣の時、事故のリスクもある中で再稼働はやむを得ないという判断をした。再稼働は一切認めないという立場には立たない。だが、柏崎刈羽(の再稼働)に必要性があるのか、住民の合意があるのか。

◆「社会保障のあり方、見直しを」「介護の社会化に投資」

枝野幸男氏の基本主張はは「ヒューマンエコノミクス 人間中心の経済へ!」(須藤英治撮影)

枝野幸男氏の基本主張はは「ヒューマンエコノミクス 人間中心の経済へ!」(須藤英治撮影)

社会保障について。高齢化が進み、医療や介護の費用が大きくなっている。この負担をどう分かち合っていくのか。
野田 もう一回、社会保障のあり方、医療・介護を含め全般的な見直しをして、そのための財源、扱いをどうするかという大きな議論を党内を挙げてやっていくべきではないか。
枝野 社会保障の「負担」と言うこと自体が、財務省の土俵の上に載せられているんじゃないか。社会福祉関連の人件費は「負担」ではなく「投資」だという意識で、しっかりと充実させるべきだ。
泉 介護の社会化ということにちゃんと投資して、働く人材の待遇を上げていく。地域経済の活性化にもつながっていく。しっかり投資をしていくべき分野だ。
吉田 少子化が一番社会保障の不安になっている。労働力不足、消費の冷え込み。すべて人にまつわるところから始まっている。教育は、その子の一生の財産になる。それをしっかり提供できる態勢がある日本なんだ、ということが大きいのではないか。

◆「外交・安保は極端にすぐ変えられない」「集団的自衛権違憲

泉健太氏の基本主張は「立憲民主が政権を担う。」(須藤英治撮影)

泉健太氏の基本主張は「立憲民主が政権を担う。」(須藤英治撮影)

━安全保障政策について。幅広い支持を得るには、どれだけ現実的な政策を出せるかが大事になってくると思うが、立憲民主党は安保法制の違憲部分を廃止するとしている。集団的自衛権の行使が違憲だと考えているのか。
野田 集団的自衛権については違憲。その上で、違憲部分については廃止をするなど必要な措置を行うというのが、党としてまとめた内容だ。その基本に沿いながら、いざ政権を取った時には、立法事実としてそういう必要性があったのかなど、再検証をしていく。外交・安全保障は極端に180度、すぐ変えることはできない」
枝野 集団的自衛権の行使は明確に憲法違反だと思っている。あの(憲法解釈を変更した安倍政権の)閣議決定がなくても、あの法律(安保法制)は相当部分できたと思っている。閣議決定は本来のものに戻すべきだ。ただし、そのことによって法律改正が必要なのかどうかは、しっかりと整理をしなければならない」
泉 集団的自衛権違憲だというのは、日本の変わっていない考え方だと思っている。
吉田 集団的自衛権違憲という立場だ。憲法の改定を求める声が国民から沸き上がってきて、変えてほしいという議論(があるなら)、これからは逃げない。しっかり議論する。為政者の側から出た論であれば、疑問符がつく。

◆選択的夫婦別姓は全員が賛成

━選択的夫婦別姓は賛成か。同性婚を認めることは。
(※全員が挙手)

◆「使途不明金は根絶」「民間企業と同じことをやればいい」

吉田晴美氏の基本主張は「教育×経済=国民生活の底上げ」(須藤英治撮影)

吉田晴美氏の基本主張は「教育×経済=国民生活の底上げ」(須藤英治撮影)

━政治不信を払拭するため、政権をとったら何をやるのか。
野田 (自民党の裏金事件を受けて改正された)政治資金規正法は大甘だ。企業団体献金廃止、(政治資金)パーティー、政策活動費。抜本改革を実現していきたい。
枝野 (自民党の)裏金議員を選挙で落とすということ自体が一つのけじめだ。そのためには、われわれが勝たなければならない。政治改革のわれわれの法改正を飲ませる。情報公開と公文書管理のシステムを抜本的に強化する。ごまかしはできないという仕組みをつくる」
泉 (改正政治資金規正法で導入された)政策活動費の10年後公開はあり得ない。使途不明金は根絶する。
 政治資金の上限を決めていくべきだ。1選挙区で年間使える額の上限を決めるくらいは、民主主義のあり方として正しいんじゃないか。
吉田 民間企業と同じように当たり前のことをやればいい。領収書は全面公開、全ての収入、支出、トータルの監査を行う。民間企業が当たり前にやっていることを政治がやる。
質問に挙手で答える(左から)野田佳彦氏、枝野幸男氏、泉健太氏、吉田晴美氏=東京都千代田区の日本記者クラブで(須藤英治撮影)

質問に挙手で答える(左から)野田佳彦氏、枝野幸男氏、泉健太氏、吉田晴美氏=東京都千代田区の日本記者クラブで(須藤英治撮影)


【解説】立憲代表選、4人が出馬…どこに注目?(2024年9月7日『日テレNEWS NNN』)
 
立憲民主党の代表選のポイントについて、政治部官邸キャップの平本典昭さんとお伝えします。
【動画】立憲民主党代表選候補者 共同会見
──争点は何になるのでしょうか?
野党第一党の党首選、大事な選挙戦です。一言で言えば「次の総理大臣を狙いに行く中、誰が最もふさわしいか」が最大の争点と言えます。
ある立憲幹部は「裏金事件で有権者は変化を求めている。次のリーダーの最大の仕事は政権奪還だ」と述べています。別の立憲幹部は「10年に1度の政権交代のチャンスだ」とも話しています。
自民党総裁選で小泉さん、石破さんは「早期に衆院選を行う」と主張しています。有権者の中には「裏金事件で自民党は嫌だけど民主党政権は混乱した。今の立憲に果たして政権を託せるのか」という声が多いです。
この人がトップのチームなら託せると思ってもらえるかが、最大のポイントです。
──選挙戦はどんな展開になりそうですか?
まず、今回の選挙戦は異例の展開となりました。告示当日の締め切り1分前に、1年生議員の吉田さんは届け出受理、告示前日に現役代表の泉さんがようやく推薦人20人を確保しました。
裏を返せば、この2人は出遅れたわけで、選挙戦は(安定した支持基盤を持つ)野田さんと枝野さんの戦いが軸になりそうです。
野田さんの強みは、一度総理大臣をつとめた経験。弱みは、新鮮味のなさ。枝野さんは強みは官房長官、前の代表をつとめた経験。弱みは、新鮮味のなさ、です。
──2人は強みも弱みも似ていますね。
党内からは「昔の顔対決」などとも言われています。
この2人に対して、現代表で、4人の中で最も若い泉さんは、直近の国政選挙での勝利など実績を武器に戦います。
唯一の女性候補、吉田さんは期限付きの消費税の減税政策などを訴えます。
2009年の政権交代から15年。あの時とどう変わったのか?そのトップに立つリーダーの魅力、チーム力、そして政策実行力があるのかどうかを、論戦で示せるかがカギです。
──今後、わたしたちは何に注目していけば良いでしょうか?
自民、立憲などが政権の座をかけて戦う衆院選は、早ければ来月、再来月に行われる可能性もあります。
衆院選が「決勝戦」とすると自民党総裁選。そして、この立憲代表選はいわば「準決勝」とも言えます。
わたしたちは決勝戦でどう投票するか判断する上でこの準決勝も注目してチームの特性、トップの実力、選手の研究をするチャンスにしてみてはいかがでしょうか。