兵庫県の斎藤元彦知事がパワハラ疑惑などを内部告発された問題を巡り、県議会の調査特別委員会(百条委員会)は5、6日の両日、証人尋問を実施する。斎藤氏や元県幹部らを呼び、告発者を公益通報の保護対象とせず、懲戒処分を先行させた対応に問題がなかったかなどを追及する。
5日午前、公益通報制度に詳しい上智大学の奥山俊宏教授が参考人として意見を述べた。奥山氏は「知事らは軽々に『真実相当性なし』『公益通報に該当せず』と判断するのではなく、内部公益通報に関する調査が終わるのを待つべきだった」と指摘。「公益通報に当たらない、と判断したのは拙速に過ぎた」として、知事らの対応は公益通報者保護法に違反するとの意見を述べた。
同日午後には、県に法的な助言をした弁護士らが証言した。県人事課から相談を受けていた県の藤原正廣特別弁護士は「公益通報にあたるかどうかの検討はしたが、文書は真実相当性がなく、不利益取り扱い禁止の外部通報にはあたらないと判断した」と説明した。
4月に人事課から「公益通報窓口の判断を待たずに懲戒処分にすることは可能か」という相談を受け、「懲戒処分は3月の行為に対するものなので、公益通報があっても影響を受けず、法的に問題がないと回答した」と述べた。
公益通報者保護法は報道機関などへの「外部通報」を認めているが、県は3月に文書の存在を把握後、前県民局長が保護対象となるか法的な検討を十分にしないまま人事課の調査を進めた。
斎藤氏は、同法で定める保護要件の「信ずるに足りる相当の理由」はなく、公益通報にあたらないとの見解を示している。その根拠の一つに、片山氏らによる事情聴取に対し前県民局長が「噂話を集めて作成した」と発言したとしていることを挙げる。
公益通報窓口の調査結果を待たず、懲戒処分を先行させた対応の是非も焦点となる。処分案を審議する5月2日の綱紀委員会では、委員である県幹部3人から「公益通報を受理している段階で処分を先行させてもいいのか」との意見が出たが、処分案を協議する綱紀委員会で、当時の委員長の井ノ本知明前総務部長が「問題ない」と押し切った。
知事や告発文書に名前が挙がった井ノ本氏が処分にかかわった点も問題視されている。5日に出頭予定だった井ノ本知明前総務部長は安全面への懸念と体調不良を理由に欠席した。
6日は斎藤氏と、前県民局長を事情聴取した片山安孝前副知事(7月に辞職)に証言を求める。
斎藤氏はこれまで懲戒処分について「公益通報前の文書配布行為を含め職務専念義務違反など4つの非違行為に関するもの。あとから手続きをしても遡って保護されるものではなく、処分は適切だった」との説明を繰り返している。
証人尋問では、告発文書で指摘された贈答品の受領についても問いただす。5日に出頭する原田剛治産業労働部長は、地元企業からPRのためにコーヒーメーカーなどを受け取ったことを認めている。
職員アンケートでは、斎藤氏本人が「視察先で土産のカニを職員の分まで持ち帰った」などの記載がある。斎藤氏の贈答品受領を巡る真偽や経緯も調べる予定だ。
斎藤知事は同月中旬、総務部長(当時)を通じて、県の人事当局に「(公益通報の)調査結果を待たずに処分できないか」と打診。人事当局は、藤原弁護士の「法的には可能」との見解を受けて5月7日、文書を「核心的な部分が事実ではない」とする内部調査結果を発表。男性職員を停職3か月の懲戒処分とした。藤原弁護士も結果や処分を発表した人事当局の記者会見に同席していた。
この日の証人尋問で、調査に客観性があるのか疑問があるとの指摘を受けた藤原弁護士は「懲戒処分を行った後で、仮に争われても裁判所で是認してもらえる、裁判にも耐えられるだけの調査が行われたという意味で客観性があると申し上げている」と述べた。
県の人事課から公益通報の判断を待たずに処分ができないかとの相談を受けたことや、それに対して「法的には問題ない」との見解を示したことは事実と説明。その上で、「(男性職員の)懲戒事由は3月の文書の配布行為。その後に(県の窓口に)内部通報があっても、3月の行為の評価が変わるものではない」との見解を伝えたと述べた。
現在も見解に変わりないかという質問に対しては、「文書に書かれた内容について判断している。その後出てきた話は文書に書かれていない事実で、文書だけを見れば真実相当性は否定されると判断している」と述べた。