常識超えた台風10号を教訓に(2024年9月5日『日本経済新聞』-「社説」)

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台風10号に伴う大雨によって、広い地域で被害が出た(冠水した大分県由布市)=共同
 ノロノロと迷走した台風10号は広い範囲に記録的な雨を降らせ、被害をもたらした。従来の常識とは違う現象だ。地球温暖化の影響で同様の台風が増えると予想される。経験則にとらわれず、風水害への備えを見直すべきだ。
 九州に上陸した台風10号は3日がかりという異例の遅さで東海沖へ進んだ。このため、西日本では暴風雨による影響が長引いた。南の海から暖かく湿った空気が流れ込み、台風から遠く離れた東北や関東でも大雨となった。
 2日までに死者・行方不明者は8人にのぼり、130人近いけが人が出た。各地で浸水や冠水、橋の崩落、土砂崩れが相次いだ。
 政府は被害が出た7県の34市町に対し、普通交付税を一部繰り上げて配分する。まずはインフラの復旧に全力を挙げてほしい。
 台風10号は上陸直前まで発達し、異例の遅い速度で迷走した。日本近海の水温が記録的に高かったことに加え、偏西風も通常より北側にあったため、その風に流されず、速度が遅いままだった。
 英インペリアル・カレッジ・ロンドンの分析では、台風10号のように「最強クラスに近い」勢力の台風がこの10年間で増えている。温暖化の影響で、台風の激化は続くとみる。ほとんど動かず迷走するケースも増えるだろう。
 亜熱帯では台風が低速でさまよい、発達し続けることが多い。今夏は平均気温が平年を1.76度上回り、2年続けて最も暑い夏だった。日本も亜熱帯になりつつあると危惧する専門家もいる。
 1959年の伊勢湾台風を教訓に、防災インフラの整備と予測技術の向上で被害は減った。だが、これまで大丈夫だったからという先入観は禁物だ。近年は甚大な被害を伴う風水害が起きている。政府も自治体も今回の経験を今後の対策に生かしてもらいたい。
 都市部を中心に、急激な豪雨で排水能力が追いつかない状況もみられた。現在の設備で耐えられるのか、増強が必要なのか、検証する必要がある。