激甚化する自然災害 つながり深め命救いたい(2024年9月1日『毎日新聞』-「社説」

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台風10号に伴う強風で、吹き飛ばされた建物の屋根のような金属板が電線にからみついていた=宮崎市東大淀で2024年8月29日午前8時35分、下薗和仁撮影
 災害が激甚化している。高齢化や地方の過疎化が進むなか、防災は社会の変化に即した対応を迫られている。
 強い勢力を保って上陸した台風10号は、各地で大きな暴風雨による被害をもたらしている。
 今年1月に最大震度7を観測し、300人以上が亡くなった能登半島地震では、道路や水道などのインフラが寸断された。高齢者が暮らす多数の地区が孤立し、支援や復旧は困難を極める。
 7月末の大雨で最上川が氾濫した山形県戸沢村では、浸水した住宅約300戸のうち約20戸が空き家だった。倒壊や悪臭の発生が懸念されるが、一部は所有者不明のため、現在は手を付けられない状態だ。
 地球温暖化を背景に、近年は大規模災害のリスクが増大した。
 日本損害保険協会によると、1970年以降の火災保険の支払額上位10件のうち7件がこの10年で発生した風雪水害だ。
 こうした中で、市民の防災意識は高まっている。
 南海トラフ地震震源域にある静岡県は、定期的に県民意識調査を実施している。南海トラフ地震への関心が「非常にある」と回答した割合は能登半島地震後には82%となり、発生前に比べて20ポイントも上昇した。
 危機意識の高まりを一時的なものに終わらせず、日ごろの心構えと行動につなげることが肝要だ。鍵を握るのは防災訓練である。
 静岡県で30年以上、危機管理を担当した岩田孝仁・静岡大特任教授は「訓練が重要なのは、住民や行政の間で顔の見える関係を構築し、どんな支援を必要とする人がどこにいるかを知るきっかけになるからだ」と話す。
 大災害では警察や消防などによる支援や救助が遅れる恐れがある。地域住民で支え合う「共助」が欠かせないが、都市部では近隣との交流が乏しい。地方では防災の担い手が減っている。
 訓練を重ねることで住民同士が協力しあい、災害弱者を守るコミュニティーを作ることが大切だ。
 きょうは防災の日である。備蓄や避難経路を確認するだけでなく、子どもから高齢者まで、人のつながりの大切さを再確認する契機としたい。