河野太郎氏に批判続々…マイナ保険証で「逆に疑念を抱かせた」 突破力が裏目に?(2024年9月4日『東京新聞』) 2024年9月4日 06時00分

 
マイナンバーカードを健康保険証として使う「マイナ保険証」について、地方紙18紙が8月に実施した合同アンケート(1万2007人が回答)では、旗振り役の河野太郎デジタル相への不満や批判が噴出した。
「河野がんばれ」の声も一部にはあったものの、マイナカードのメリットを認める人たちからも「必要以上に不安をあおってしまった」と苦言が寄せられた。

河野氏は「実績」と誇るけれど

自民党総裁選への立候補を表明する河野太郎氏=国会内で

自民党総裁選への立候補を表明する河野太郎氏=国会内で

河野氏自身にとっては、マイナカードの利用促進は「実績」のようだ。
自民党総裁選への立候補を表明した8月26日の記者会見では、押印の廃止や新型コロナウイルスのワクチン接種と並べて言及し、「いろんな批判はいただきましたが、それなりに物事を前に進めてまいりました」と誇った。
「ただ口で改革と言うのではなく、改革を積み上げてきた実績というのがこれから問われていく」とも語り、自身の「突破力」をアピールした。
けれど、アンケートの自由記述欄で政府への意見などを尋ねると、河野氏の手法に反発する声が多く届いた。特に批判を集めたのが、国会答弁や記者会見での対応だ。
例えば8月8日の記者会見では、東京新聞の記者が「現行の健康保険証を廃止してマイナ保険証に一本化することで、事実上、マイナンバーカードの取得を強制することにはならないでしょうか」と問うと、河野氏は「全くならないと思いますよ。何でそういう議論になるのかよく分かりません」と一蹴した。
8月8日の記者会見でマイナ保険証の質問に答える河野太郎デジタル相(デジタル庁の動画のスクリーンショット)

8月8日の記者会見でマイナ保険証の質問に答える河野太郎デジタル相(デジタル庁の動画のスクリーンショット

記者 高齢者や障害者からは、マイナ保険証が使いづらいという声もあります。選択肢の一つとして、現行の保険証を残したほうがいいのではないでしょうか。
河野氏 ちょっと論理が飛躍しているんじゃないかと思います。現行の保険証は偽造、なりすましを防ぐことができませんから、これを続けていくということは問題をそのまま引き継ぐことになりますので、現行の保険証を残すことは全く考えておりません。
記者 マイナ保険証やマイナカードについて、メリットやデメリットが把握できなくて、どうすればいいのか分からないという声も東京新聞にたくさん届いています。保険証が廃止となるあと4カ月間(12月2日まで)で、こういった方々の理解を得て、不安を取り除くことはできるとお考えですか。
河野氏 東京新聞を読んでいる方でそういう声があるならば、東京新聞でぜひメリットをちゃんと伝えていただきたいと思います。
こうした受け答えを繰り返す姿勢に東京都内の30代女性は「説明は不十分。否定的な意見は全く聞かない、国民を馬鹿にしているとしか思えない」と憤る。

◆態度に反発「国民と対話してほしい」

千葉県松戸市の60代女性も「河野さんは保険証をなくすことは強制にはならないと言うが、間違いなく強制だ」と批判した。
東京都武蔵野市の50代女性も「河野大臣の傲慢で拙速な態度が逆に、国民の心をかたくなにし、疑念の思いを抱かせているのではないか?」と感じている。
この女性は、顔認証が使えない人、暗証番号が覚えられない人への対応など、マイナ保険証の懸念点を挙げた上で、「政府は今一度落ち着いてほしい。じっくりと時間を掛けて国民と対話してほしい」と希望した。

◆「通報」促す文書に反発も

河野氏が4月、自民党の国会議員にマイナ保険証が使えない医療機関の通報を促す文書を配ったことを疑問視する声もあった。
視察先の病院で、来院する人にマイナ保険証の利用を呼びかける河野デジタル相㊨=2023年11月、東京都港区で

視察先の病院で、来院する人にマイナ保険証の利用を呼びかける河野デジタル相㊨=2023年11月、東京都港区で

長野市の40代男性は「使えない医療機関があったら通報しろと。いまの国がやろうとしていること、何かが大きく間違っていると思います」と訴えた。
東京都世田谷区の50代男性は「政府が国民に信頼されているなら、とっくに導入は進んでいる」とアンケートに書いた。詳しい意見を取材で尋ねると、男性から河野氏の名前が出た。
男性は、河野氏が通報を促したことを「多くの人が(現行の)保険証との併存を訴え、署名活動などが行われているにもかかわらず、見直す様子がないどころか、圧力を強めるような態度」だと指摘。マイナ保険証がないと病院にかかれない制度にまもなく変えるのではないか、と疑念を抱くようになったという。

◆マイナカード促進を支持する人は

マイナカードの利用促進を支持する人の中には、河野氏を評価する声もある。
京都市の80代男性は、新型コロナ禍の給付金交付を担った自治体職員の苦労を振り返り、「マイナンバーカードが普及していたら、スムーズにできたのに惜しい限り」と嘆いた。
その上で、今後のマイナカードの利用拡大に期待し、「河野太郎デジタル大臣は後世になってその価値が世間に理解され尊敬される人物になると思います」と予想した。
東京都清瀬市の60代男性の見方は、逆だ。「マイナカード導入当初からの不手際や、河野大臣の強引なやり方、言動が制度のイメージを悪化させ、必要以上に不安や懐疑心をあおってしまった」とみる。
この男性は、取材に「日本の医療機関の情報共有が著しく悪い。改善のためにはオンライン化することが不可欠」だと答えた。だから、マイナ保険証の活用にも賛成している。
それでも、12月2日に迫る保険証廃止は見直すべきだと考えている。男性は「従来の保険証にとどまりたい国民を説得するのを、不必要に困難にしてしまった以上、(マイナ保険証と従来の保険証との)併用を選択するのが良い」と訴えた。(デジタル編集部 福岡範行)
 

マイナ保険証の合同アンケート 東京新聞「ニュースあなた発」など読者とつながる報道に取り組む全国の18紙が8月9~18日に通信アプリLINE(ライン)などで呼びかけ、1万2007人から回答があった。多様な声を聞き取るのが目的で、無作為抽出の世論調査とは異なる。
回答者のうちマイナカードを持っている人は64.4%(全国では、7月末時点で74.5%)、保険証として使っている人は26.3%、今後使う予定の人は15.6%だった。

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