◆花模様をまとい、見違える姿に
色あせたり黒ずんだり、ひびが入ったりしたこけしの表面を磨く。そして、鎌倉彫の特徴であるツバキやアジサイなどの花の模様を彫り、漆を塗る。朱色だけでなく、藍や抹茶などの寒色も用いられ、人形はつややかな彩りと光をまとって生まれ変わった。
こけしは奈良時代に生まれ、江戸時代に東北地方の温泉地で、土産として盛んに作られるようになったといわれる。中でも「伝統こけし」は東北各地で受け継がれた模様や形、技法を守って作られ、産地により宮城県の鳴子系、遠刈田(とおがった)系、岩手県の南部系など十数系統に分けられている。
沼田さんは2009年にコケーシカをオープン。東日本大震災のあった11年、こけしを通じて東北を応援する専門誌「こけし時代」を創刊し、伝統こけしの産地やこけしを作る職人「工人(こうじん)」について詳しく発信してきた。また、震災で流された多数のこけしを引き取り、災害遺産として保管してきた。
一方、かつて旅の土産として家庭に飾られたり、コレクションされていたこけしが廃棄処分されるケースが増えた。コケーシカには「人形だから捨てられない。供養してほしい」という依頼も舞い込んだ。
◆増える廃棄「何とか残せないか」
古くなったこけしにも、それぞれの産地で厳選された木材が使われている。「何とか廃棄処分にせずに残せないか」。沼田さんが目をつけたのが、カツラやイチョウなどに模様を彫り、漆を塗って仕上げる地元・鎌倉の伝統工芸だった。
塗師の岡英雄さん(65)=鎌倉市=や彫師の永井統彩さん(67)=同=に声をかけると、岡さんは「変わっているな」と受け止めつつ、「仕上がりが見てみたい」と快諾。昨年からプロジェクトを始め、捨てられるはずのものに新たな価値を生む「アップサイクル」を目指した。永井さんは「今まで鎌倉彫のこけしがなかったのが不思議なくらい違和感がない」と出来栄えに自信を見せる。
今年5、6月に鎌倉市内で展示販売会を開催し、「シルエットが美しい」「インテリアになる」などと好評だった。価格は1万円台から10万円台で、コケーシカの店舗やオンラインで販売している。沼田さんは「新しい鎌倉の伝統として広がってほしい」と話す。
コケーシカ(鎌倉市長谷1の2の15)の営業日は金―月曜と祝日。午前11時~午後6時。問い合わせは電0467(23)6917へ。
鎌倉彫 鎌倉時代に仏具として作られ始め、室町時代以降は茶道具として珍重された。幕末期以降の廃仏毀釈(きしゃく)運動で仏師としての仕事は激減したが、その一部が技術を生かし、日用品や土産物の制作に活路を見いだし、今に至る。伝統鎌倉彫事業協同組合によると、加入している職人は約40人。ほかに加入していない職人もいる。
◆文・砂上麻子/写真・稲岡悟
◆紙面へのご意見、ご要望は「t-hatsu@tokyo-np.co.jp」へメールでお願いします。
【関連記事】こけしがつないだ絆 「伝統」と「創作」作風違えど 渋川の藤川さん 避難した福島の佐藤さん支援
【関連記事】鎌倉彫をアクセサリーに 七里ガ浜高生と職人がコラボ 工芸館に展示、販売も検討
【関連記事】鎌倉彫に恋して♡ 地元の高3が職人と交流、写真で魅力伝える
【関連記事】鎌倉彫をアクセサリーに 七里ガ浜高生と職人がコラボ 工芸館に展示、販売も検討
【関連記事】鎌倉彫に恋して♡ 地元の高3が職人と交流、写真で魅力伝える