辺野古軟弱地盤で着工に関する社説・コラム(2024年8月20・21・24・27日)

辺野古埋め立て 正当性が揺らぐばかりだ(2024年8月27日『福井新聞』-「論説」)
 
 米軍普天間飛行場沖縄県宜野湾市)の移設先となる名護市辺野古沖の大浦湾側で国が先週、本格工事に着手した。海底に広がる軟弱地盤の改良のため7万本のくいを打ち込む前例のない作業だけに、難航は必至だろう。
 埋め立て区域は大きく二つに分かれ、浅瀬の南側は埋め立てをほぼ終えている。面積が広い大浦湾側ではマヨネーズ並みと言われる軟弱地盤が原因で作業が遅れていた。工期も2030年代半ばまで延び、総工費は当初の3倍近い9300億円に上る。昨今の工費高騰を受けなお膨らむことも想定される。たとえ完成しても安定した運用ができるのか、心もとない。
 沖縄県辺野古移設は基地負担の軽減につながらないとして反対している。サンゴなど環境への影響も大きい。県は法廷闘争に訴えたものの敗れ、国が地盤改良工事の承認手続きを代執行する異例の展開をたどった。このまま一方的に工事を急げば、国と沖縄県の溝は深まるばかりだ。
 先の国会で、国の自治体への指示権を盛り込んだ改正地方自治法が成立し、国と地方の「対等・協力」の関係が「上下・主従」に戻りかねないと指摘された懸念が現実のものとなったと言わざるを得ない。
 県が環境保全などの要望を伝える場だった防衛省との協議は6月に事実上打ち切られた。同月の県議選で玉城デニー知事を支持する勢力が過半数を割るのを待っていたかのようなタイミングだった。同じ6月には米兵による女性暴行事件を政府や警察が県側に通報しなかった不手際が発覚している。政府が反省し、県と向き合うつもりがあるならば、協議を再開するのが筋ではないか。
 現行の辺野古移設計画を閣議決定したのは1999年。中国が海洋進出を強めた2010年代以降、安全保障環境は様変わりしている。安保は政府の専権事項であるのは理解できるが、地域の理解なくして成り立たないのも事実だろう。
 ある在沖縄米軍幹部は昨年、計画中の辺野古の滑走路は普天間飛行場よりも短く、米軍には使い勝手が悪いと指摘。「軍事的観点からは普天間の方がいい」と公言していた。他方で、米当局は在日米軍の機動力を重視し、普天間を使う海兵隊の米領グアムへの移転を12月に開始する方針だ。再編が進めば海兵隊員らは半減することになる。
 辺野古移設の正当性が今や揺らぐばかりというのが現実だ。日米両政府のトップ交代を、計画を見直す機会とすべきではないか。

辺野古工事 県は妨害活動黙認するな(2024年8月26日『産経新聞』-「主張」)
 
キャプチャ
埋め立て用土砂の運搬作業再開に抗議する人たち=沖縄県名護市
 

 米軍普天間飛行場沖縄県宜野湾市)の名護市辺野古への移設に向け、防衛省が軟弱地盤のある海域で護岸工事に着手した。
 新たな護岸を海中に造成後、土砂を投入して埋め立て、滑走路などを建設する。全ての工事が終わって移設が完了するのは令和18年以降になる見通しだ。
 市街地に隣接する普天間飛行場の危険性を除去するための移設である。工事の本格化を、県民の負担軽減への大きな一歩と受け止めたい。政府は着実に進め、県も協力すべきだ。
 辺野古の埋め立て工事は平成29年に始まり、全体の4分の1にあたる南側はすでに陸地化している。北側では軟弱地盤が見つかり、防衛省が令和2年に地盤改良の設計変更を申請したが、県は承認しなかった。
 このため政府は裁判での勝訴を経て、昨年末、県に代わって承認する「代執行」を行い、準備を進めてきた。今回の護岸工事は代執行に基づくもので、護岸の内側に約7万1千本のくいを打ち込み、地盤を改良する工事なども行われる。
 工事着手後、玉城デニー知事が「直ちに基地建設を中止すべきだ」と述べ、反対姿勢をあらわにしたのは残念である。こうした県の非協力的な対応は、普天間飛行場の移設を遅らせ、危険性の除去をいたずらに先延ばしするだけだ。
 もう一つの懸念は、反対派の不当な妨害活動である。6月には名護市の国道で、土砂運搬のダンプカーの前をわざとゆっくり歩く活動を行っていた女性と警備員の男性がダンプカーにひかれ、警備員が死亡し、女性が重傷を負う事故が起きた。
 移設工事に対する批判や抗議は自由だが、危険な妨害は認められない。事故を受け、防衛省沖縄防衛局が県に対し、妨害行為禁止の呼びかけや、安全対策を講じるよう要望したのは当然である。県は妨害活動を容認せず、現場周辺にガードレールを設置するなどの対策を早急に実施してもらいたい。
 大切なのは、沖縄の自衛隊と米軍の抑止力を維持しつつ、県民の負担を軽減することだ。そのための唯一の解決策が普天間飛行場辺野古移設であると、日米両政府は何度も確認してきた。移設が実現すれば普天間飛行場は全面返還される。その日を遅らせてはならない。

辺野古軟弱地盤で着工 無理な事業進める無責任(2024年8月24日『毎日新聞』-「社説」)
 
キャプチャ
米軍普天間飛行場沖縄県名護市辺野古への移設のため、軟弱地盤がある大浦湾に鋼管を沈めるクレーン船=名護市で8月20日、本社機「希望」から宮武祐希撮影
 技術的な疑問を残したまま難工事を強行するのは、無責任な対応と言わざるを得ない。
 沖縄県宜野湾市にある米軍普天間飛行場の移設先である名護市辺野古で、政府が大浦湾側の埋め立て工事を本格的に始めた。
 海底には「マヨネーズ状」とも言われる軟弱地盤が広がる。このため、7万本超のくいを海面から約70メートルの深さまで打ち込み、地盤を改良する。
キャプチャ2
米軍普天間飛行場沖縄県名護市辺野古への移設に向けて、軟弱地盤がある大浦湾に鋼管を沈めるクレーン船(中央手前)=名護市で8月20日、本社機「希望」から宮武祐希撮影
 政府は70メートルより下には「非常に固い粘土層がある」と説明する。しかし、軟弱地盤の最深部は約90メートルに達するとの専門家の指摘もある。県は追加調査を求めてきたが、政府は応じていない。
 そもそも、現在の技術では作業船から約70メートルまでしか、くいを打ち込めない。国内では前例のない難工事になるという。
 軟弱地盤が見つかったため、工期は大幅にずれ込み、総工費も膨らんでいる。当初は3500億円以上としていたが、地盤改良が必要となり約2・7倍の約9300億円にまで増えた。2022年度までの支出は約4000億円に達している。
 埋め立て工事はこれからが本番だ。人件費や資材価格の高騰もあり、さらに費用がかさむ懸念はぬぐえない。県は他の埋め立て工事の事例などを基に、2兆5500億円が必要になるとの独自試算を公表している。
 本格着工で、政府と県の溝はさらに深まりかねない。玉城デニー知事は「一方的に工事に着手したことは誠に遺憾だ」と批判した。
 玉城氏は、地盤改良のための設計変更の承認を拒んできたが、政府は昨年末、代わりに承認する「代執行」に踏み切った。地方自治法に規定があるとはいえ、国が自治体の権限を奪う「強権発動」が批判を浴びた。
 県は、工事の完了後に大幅な地盤沈下が起きるリスクを指摘している。そうなれば運用に支障が出る。普天間の移設計画が行き詰まれば、市街地にある「世界一危険な飛行場」は固定化される。
 沖縄県は長年、政府から過重な基地負担を押し付けられてきた。地元との対話を欠いたまま、不確実性が高い工事を推し進め、「負の遺産」を県民に背負わせ続けることは許されない。

辺野古本格着工/本当に埋め立ては可能か(2024年8月24日『神戸新聞』-「社説」)
 
 米軍普天間飛行場沖縄県宜野湾市)の名護市辺野古移設を巡り、海底に軟弱地盤がある大浦湾側での護岸造成に向け、防衛省が金属製くいの打ち込みを始めた。沖縄県は民意に沿って埋め立てに反対し、政府との協議を強く求めてきた。地元の声を無視し、本格着工を強行した国側の姿勢は到底受け入れられない。
 くい打ち作業は、埋め立て海域を囲む形でコンクリート製の護岸を整備するためだ。その後、内側に土砂を投入していく。ただしマヨネーズに例えられるほど軟弱な地盤があり、最も深いところで海面下約90メートルになるとされる。そのため7万本以上のくいを打つ地盤改良が必要になる。前例のない難工事である。
 国側は埋め立て工事全体を2033年春に完了するとしている。この計画に対し「完成する可能性は極めて低い」というのが県側の判断だ。それが埋め立て工事に反対する理由の一つになっている。玉城デニー知事は「工期もコストもはっきり説明することができない工事は、精査し直すべき」と述べる。
 大浦湾の埋め立ては本当に可能なのか。県は軟弱地盤の深い部分の調査不足も指摘してきた。工事に関する県側の憂慮が的外れと言うなら、国側は工事の見通しを裏付ける明確な根拠を示さねばならない。
 本格着工に際し、防衛省沖縄防衛局は「普天間飛行場の一日も早い全面返還を実現させるため」とコメントした。1996年の日米合意では普天間の返還は5~7年後の予定としていたが既に30年近くが経過しているうえ、工事完了後、米側への施設引き渡しの調整にも約3年かかる。早期返還には、辺野古移設以外の解決策を探る努力が欠かせない。
 辺野古の滑走路は普天間よりも短く、米軍には不満もあるとされる。たとえ辺野古の工事が進んだとしても、普天間がスムーズに返還されるのか疑問を抱かざるを得ない。
 大浦湾にはジュゴンなどの絶滅危惧種を含む多様な生物が生息する。貴重なサンゴ礁について、防衛省は移植して保護するとしているが、有効な措置にはならないと指摘する専門家もいる。工事が生態系に影響する懸念は解消されていない。
 軟弱地盤改良工事の設計変更を、県は一貫して認めてこなかった。国は法廷で争い、勝訴を経て承認の代執行に踏み切った。あらゆる手段を使って強引に工事を進める手法は、地方の自治を守るためにも、とても見過ごすことはできない。
 県側が要望する対話を、国は拒み続けている。国と県が対立する状態は異常と言うほかない。政府は工事を中断し、まずは重い基地負担を抱える沖縄の声に耳を傾けるべきだ。

大浦湾くい打ち着工 無謀な国策の強行やめよ(2024年8月21日『琉球新報』-「社説」)
 
 政府はどこまで無謀な態度を押し通すのか。なりふり構わず沖縄に国策を強要する専横を到底許すことはできない。米軍普天間飛行場返還に伴う辺野古新基地建設で防衛省20日、大浦湾側での護岸造成に向け、くいの打ち込みを始めた。
 大浦湾は2019年に国内で初めて、科学者らでつくる非政府組織(NGO)によって世界的にも重要な海域を認定する「ホープスポット」(希望の海)に認定されている。大規模な地盤改良や埋め立ての強行が、生物多様性の豊かな大浦湾に深刻な打撃を与えることは間違いない。ただちに工事をやめるべきだ。
 沖縄防衛局は大浦湾側で7月初旬からくい打ち試験を実施し、今月15日までに完了した。県は、くい打ち試験は通常の工事の着手とみなすとの立場から、玉城デニー知事が「十分に協議が調うまでは工事を始めるべきではない。しっかり厳守していただきたい」と防衛局に求めていた。
 だが、その要請は一顧だにされることはなく、大浦湾のくい打ちが強行された。
 事前協議は、13年に埋め立てを承認した仲井真弘多元知事が「実施設計に基づき環境保全対策、環境監視調査、事後調査などについて詳細を検討し、県と協議すること」との留意事項を付したことに基づき実施される。環境への影響を監視し、対策を講じるための仕組みであり、国も同意したはずだ。
 だが、工事の進展を急ぐ国は15年、事前協議の打ち切りを県に通知し、辺野古の護岸工事に着手した。今年1月にも大浦湾側のヤード(資材置き場)造成工事について県が事前協議を申し入れたが、国は「ヤードは協議の対象外だ」と突っぱねた。
 事前協議の主目的は、大規模な埋め立て工事が環境に与える影響を監視し、対策を講じることだ。新基地建設の進捗(しんちょく)に固執するあまり、環境への負荷を軽視し、一方的に協議を打ち切ったり、協議に応じなかったりする国の姿勢は不誠実極まりない。
 そもそも、何を協議の対象とするのか、国の一存で決められるものではない。本来対等であるはずの県に主従関係を強いるような対応では信頼関係を築くことは不可能だ。
 大浦湾の護岸工事を巡っては4件で予算が170億円増額されていたことが明らかになった。防衛局はこれまでも十分な説明をしないまま変更契約で予算を膨張させている。ずさんな計画を反省することなく、公金を貴重な海を埋め立てるため投げ入れ続ける公共工事は異様だ。
 大浦湾は、地盤改良後も沈下する恐れがあると専門家が指摘するほどの軟弱地盤が存在している。工事の長期化だけでなく、完成後の補修費にも膨大な費用がかかることも予想される。環境への負荷や新たな基地負担を県民に強いることになる新基地建設は断念すべきだ。

大浦湾本体工事開始へ 立ち止まり対話すべきだ(2024年8月20日『琉球新報』-「社説」)
 
 地建設で、防衛省はきょうにも大浦湾側での本体工事を始める。大規模な地盤改良や埋め立てが世界的に貴重な海に深刻な影響を与えることは明らかだ。防衛省は、県との事前協議をないがしろにし、サンゴ移植などの対応もずさんで乱暴極まりない。
 新基地に反対する県民の意思は揺るがない。改めて、辺野古埋め立ての断念と普天間飛行場の閉鎖を求める。政府は立ち止まり、県と真摯(しんし)に対話すべきである。
 昨年12月、福岡高裁那覇支部が出した設計変更承認を県に命じる判決に知事が応じない判断をした際に、政府は代執行をせずに対話をすることが可能だった。しかし、斉藤鉄夫国土交通相は有無を言わさず代執行をした。そして、仲井真弘多元知事が埋め立て承認の際に「留意事項」とした県との事前協議をせずに1月、海上ヤード(資材置き場)の造成を始めた。サンゴの移植もしないままだった。
 その後、サンゴ移植許可を巡る訴訟で県が敗訴し、やむなく県が5月に許可すると、防衛省はすぐに移植に着手した。日本サンゴ礁学会サンゴ礁保全学術委員会は「5~9月は造礁サンゴ類の繁殖期に相当しており、この時期の移植は避けるのが望ましい」としていた。しかも、サンゴの白化現象が深刻なさなかだ。無謀で無責任というほかない。
 防衛省が7月に実施したくい打ち試験も問題だらけだった。準備作業で、作業船のアンカーチェーンが移植予定のサンゴに傷を付けた。また「沖縄ドローンプロジェクト」は汚濁防止膜から濁り水が流出している写真を公開した。工事が本格化すれば汚染がひどくなる恐れがある。
 1月以来、県は事前協議を求めながら7回にわたって質問を繰り返してきた。その間防衛局は、作業ヤード造成やくい打ち試験を、事前協議の対象ではないと決めつけてきた。そして、4回目の質問に答えた6月18日、一方的に「協議は調いつつある」として、8月からの本体工事を通知したのである。
 さらに、護岸工事4件で予算が170億円増額されていたこともずさんさの表れだ。
 6月28日に起きた名護市安和での埋め立て土砂を運搬するダンプカーによる死傷事故では、沖縄防衛局が反対する市民の抗議活動を「妨害行為」だとして県に安全対策を要請した。警察が捜査中であり、市民側は防衛局が業者に無理を強いたからと主張している。県に運動を抑え込ませようとするのは筋違いだ。
 工事が本格化すれば、沖縄戦犠牲者の遺骨の混じる土砂が使用されることへの懸念も、全国で高まるだろう。
 代執行訴訟の福岡高裁那覇支部判決は「付言」で「対話による解決が望まれる」と述べた。政府は今こそ対話に転換し、貴重な海の保全と沖縄の負担軽減に取り組むべきである。