祝祭と課題が交錯した「新時代」の五輪(2024年8月12日『日本経済新聞』-「社説」)

 
「新時代」の五輪のあり方が問われている(パリ郊外での閉会式)=中尾悠希撮影
 

 パリ五輪が閉幕した。トップアスリートの躍動が感動を呼んだ一方で、様々な課題も浮き彫りになった。五輪は今後どうあるべきか、改めて見つめ直したい。

 日本勢は体操やレスリングといったお家芸に加え、アーバンスポーツと呼ばれるスケートボード、ブレイキンなど幅広い競技で好成績を上げた。海外選手と渡り合える若い力の台頭を印象づけた。

 金メダルの数、メダル総数とも海外の五輪で最多を更新した。健闘をたたえたい。もちろん、メダルに届かなかった選手もその努力の足跡は胸を打つ。メダル数だけにこだわりすぎない五輪の楽しみ方も探っていけたらいい。

 コロナ禍で無観客だった東京から一転、選手と観客が触れ合い、祝祭感にあふれる大会となった。残念だったのがSNSでの中傷である。敗れた選手や微妙な判定などに罵詈(ばり)雑言が浴びせられた。不満や主張があったとしても、不当な攻撃は許されない。

 国際オリンピック委員会IOC)は今大会から人工知能による問題投稿の削除に乗り出した。実効性を高める方策をさらに練ってほしい。社会全体でネットマナー向上を図ることも大切だ。

 今大会で初めて男女の参加枠が同数となったことは評価できる。一方、スポーツの世界で性的少数者らをどう位置付けるかの議論はなお途上だ。マイノリティーの人々の苦悩に寄り添いつつ、検討を進める必要がある。

 五輪憲章は政治的中立をうたい、国連は大会期間中の休戦を促した。だがウクライナガザ地区での戦闘は止まらなかった。

 IOCはロシアとベラルーシの選手について、ウクライナ侵略を積極支持しない条件で「個人資格の中立選手」として限定的に参加を認めた。他方でイスラエルの選手については制約を設けず、パレスチナ側からは批判が出た。

 もとより五輪は国際政治と無関係ではない。だとしても「平和の祭典」を空疎なスローガンにしてはなるまい。IOCのバッハ会長は閉会式で「五輪は平和の文化を生み出し、世界を突き動かせる」と語った。そのための具体的行動が引き続き問われる。

 バッハ氏は五輪が「新時代」を迎えているという。経費の抑制や多様性への配慮、持続可能性といった課題への取り組みは今後も続く。4年後の米ロサンゼルス大会に向け議論を深めたい。