「教科書に書いてあることを…(2024年8月5日『毎日新聞』-「余録」)

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各国の楽器が紹介された「小学館の図鑑NEOこどもコンサート」=東京都港区のサントリーホールで2024年8月3日午後2時27分、田中泰義撮影
 「教科書に書いてあることを信じない」。手術、抗がん剤放射線に続く「第4のがん治療法」と呼ばれる免疫療法の開発でノーベル賞を受賞した本庶佑・京都大特別教授の言葉である
▲この世は、先入観を招く要素にあふれる。18世紀に活躍したバッハらの肖像画が掲げられる学校の音楽室もそうだ。作曲家の池辺晋一郎さんが先日のラジオ番組で「音楽はバッハから始まったと思わせてしまう」と懸念した
小学館の図鑑編集者、大藪百合さん(37)は長男がバイオリンを始めたことから、世界中の音楽を1冊にまとめる企画を思い立つ。数千年前からアラブで愛されるウードという楽器が、日本の琵琶や欧州のリュートにつながることを知った
▲「多様性が尊重される現代こそ、古今東西の多彩な音楽と出合ってほしい」。池辺さんらの協力を得て「小学館の図鑑NEO 音楽」を完成させた。300種類以上の楽器が登場し、QRコードで計6時間に及ぶ音源が楽しめる
▲今年、音楽を文字で伝えるという難題に挑む人々を応援する「音楽本大賞」の特別賞に選ばれた。クラシックに偏らず、さまざまなジャンルを「等価」に扱った視点が審査委員の目に留まった
▲子どもたちは夏休みの自由研究で悩んでいるころか。リュートの達人でもあった天文学者ガリレオは「重い物体ほど速く落下する」などの人々の思い込みを実験でただしたという。「本当はどうなっているの、という心を大切に自分の目で見てほしい」。本庶さんのアドバイスだ。