目に余る検察の不当取り調べ(2024年8月5日『日本経済新聞』-「社説」)

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取り調べの違法性を認めた判決の後、記者会見する原告の江口大和さん㊥ら(7月18日)
 密室の中で、検察の不当な取り調べが横行しているのではないか。そう疑わせる事例が相次いで明らかになった。
東京地裁が検事による「お子ちゃま」などの発言を違法と判断したほか、大阪地裁の民事訴訟では威圧的な取り調べの動画が法廷で流された。
 容疑者らを脅したり人格をおとしめたりして、自白や都合のいい証言を得ようとする行為はあってはならない。本人の意に沿わない供述は冤罪(えんざい)を生む。背景を検証し、再発防止を徹底しなければならない。
 東京地裁の判決によると、犯人隠避教唆容疑で横浜地検に逮捕された元弁護士が黙秘したところ、検事が「あなたの言っている黙秘権ってなんなんですか、全然理解できない」「お子ちゃま発想」などの発言を繰り返した。判決は「侮辱的な表現で、人格権の侵害にあたる」と断じた。
 訴訟で国側は「真相解明のための説得」などと主張したが、黙秘権は憲法刑事訴訟法に定められた正当な権利だ。ないがしろにするような発言は耳を疑う。
 これは特異な事例ではない。不動産会社の元社長が国を訴えた訴訟では、「会社の評判をおとしめた大罪人」などと関係者に詰問する様子が流された。参院選広島選挙区を巡る買収事件でも、有利な処分をにおわせ供述を誘導しようとした事案が明らかになった。
 大阪地検の証拠改ざん事件を受けて検察庁が2011年に定めた「検察の理念」は、任意性に配慮した取り調べに努めるとうたっている。当時の国民に対する誓いはどうなったのか。
 証拠改ざん事件などを契機に、取り調べの可視化(録音・録画)が19年に義務化された。元弁護士に対する取り調べの状況もこの記録で裏付けられた。
 だが義務付けは裁判員裁判対象事件や検察の独自事件に限られ、事件全体の3%に過ぎないとされる。対象の拡大に向けた議論を急ぎたい。