増加傾向のドメスティックバイオレンス(DV)対策として、国や自治体が加害者側の更生プログラムの普及に乗り出している。被害者を加害者側から離すことが従来の主な対策だったのに対し、加害行為を根本的になくすのが目標。専門スタッフらの助言を受けながら自身の過ちを振り返り、考え方を改めていく。実施団体の確保や、任意となっているプログラムへの誘導が課題となっている。(米田怜央)
◆ミルクの温度が違うだけで怒鳴った
「あなたのやったことは精神的DVだ」。東京都内の男性(35)は昨年、幼い娘を連れて家を出る直前の妻がぶつけた言葉で気がついた。自分の行為はDVなのか―。
数年前に精神を病んだ。妻に促されて退職し、再就職先が見つからなかった。面接に落ちると「仕事を辞めろと言ったせいだ」と妻に当たり、生まれたばかりの娘のミルクの温度が違うだけで怒鳴った。後悔する時もあったが、いつも「ごめん」と謝る妻に非があると思い込んでいた。
◆妻との別居を機にプログラム参加
2011年に始まったプログラムは1コマ2時間で52コマが目安。参加者は怒りのコントロールや相手に寄り添う考え方を目指し、スタッフの講義を聴き、体験を語り合う。男性は4月の回で、似た境遇の6人と共にパートナーの考えを尊重できず、意見を言わせなかった過去を明かした。
◆「加害者が変わらなければ不安続く」
ステップの活動は被害者相談やシェルター運営から始まった。栗原加代美理事長(78)は「被害者に逃げることか離婚を促してきたものの、ほとんどの人は我慢してしまう。環境を変える負担も大きく、加害者が変わらなければ不安は続く」と話す。内閣府の23年度調査では「配偶者から被害があった」と答えた462人のうち、別れたのは16%。子育てや経済的な不安がとどまる要因だった。
ステップではこれまで1200人が受講した。暴力や暴言がなくなった例がある一方、途中で断念したり、加害行為への自覚がみられない人も少なくない。
男性は劣等感やマイナス思考が暴力につながったと思うようになった。妻と離婚し、関係は戻らないが「ひどいことをしていたと、やっと分かった。せめて人を傷付けない人間になりたい」と願う。
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◆被害相談は右肩上がり、国も更生に重点
警察庁のまとめで、配偶者や同居パートナーらによるDV被害の相談は右肩上がりに増えている。内閣府は昨年9月策定のDV防止の基本方針に、これまで中心だった被害者を加害者から離し保護することに加え、加害者の更生プログラム実施を初めて明記した。
国は自治体に交付金助成を始めたほか、東京都が2023年度に民間団体への最大100万円の補助金制度を創設するなど、一部自治体でプログラムへの支援が動きだした。一方、内閣府が6月に公表した都道府県と政令市への調査では、プログラム実施や団体への補助などをしていたのは2自治体にとどまる。