県警の鈴木達也本部長の記者会見である。
長野・岐阜両県警が行った特殊詐欺事件の家宅捜索に「重大な違法」があったと地裁松本支部が認定したことへの見解を問われ、「警察としては法律に定める手続きにのっとって捜査を遂げたものと認識している」とだけ述べた。
違法ではなかった―としか聞こえない。詐欺事件そのものは裁判所が起訴内容を認め、有罪判決を出した。だからだと言いたいのか。捜査過程に違法性があったとの指摘を認めないのなら、県警トップとして、理由をはっきり県民に語る必要がある。
裁判所は、2022年に松本署などが行った家宅捜索を問題視した。計5回のうち逮捕時の初回を除き、勾留中だった容疑者に令状を示さず、護送に必要な人員が確保できない―として本人を立ち会わせなかったことを、「令状主義の精神を没却するような重大な違法」と断じた。
刑事司法の適正な手続きと容疑者の権利を定めた憲法31~40条の柱の一つが令状主義である。
捜査機関が家宅捜索などの強制捜査をするには、原則、裁判所の令状が要る。執行の際は容疑者に示し、説明しなければならない。捜査の行き過ぎに歯止めをかけ、人権侵害を防ぐためだ。
裁判所は、押収物を記載した調書など証拠の一部を採用しなかった。証人として出廷した県警の捜査員も容疑者に令状を示さなかったことを振り返り、「違法だったと思っている」と述べている。
弁護人に違法性を指摘された県警が、家宅捜索時に容疑者への令状提示を徹底するよう指示する内部文書を出していたことも本紙の情報公開請求で分かった。
ただし、「違法と言われないための徹底事項」と記されていた。組織として指摘に正面から向き合っているとは言いがたい。
もし違法性がないと考えるのならその根拠は何か。組織的な慣行になっていなかったのか。あるいは捜査体制に課題があるのか。県民が知っておかなければならないことは多々ある。
法を尊び、法を守って活動すると思えばこそ、県民は実力組織としての権能を警察に託している。それが揺らぎかねない裁判所の指摘である。本部長自ら説明を尽くし、理解を得るべきだ。
あいまいな姿勢でやり過ごそうとするなら、県民を代表し、警察を監督する役割を担う県議会がたださなくてはならない。