新潟県の「佐渡島の金山(さどのきんざん)」が世界文化遺産として登録されることが、インドの首都ニューデリーで開かれているユネスコ世界遺産委員会で決まりました。今回の決定で国内の世界遺産は、文化遺産と自然遺産あわせて26件となります。

世界文化遺産への登録 全会一致で決定 

新たな世界遺産を決めるユネスコ(国連教育科学文化機関)の世界遺産委員会の会議はインドの首都ニューデリーで行われています。

日本が世界文化遺産として推薦する新潟県の「佐渡島の金山」の審議は日本時間の27日午後1時半すぎに始まり、審議の結果、全会一致で世界文化遺産として登録することが決まりました。

佐渡島の金山」をめぐっては韓国政府が「朝鮮半島出身の労働者が強制的に働かされた場所だ」として反発し、日韓両政府が話し合いを続けてきた経緯がありますが、審議では、韓国も委員国の一つとして登録に同意しました。

登録決定を受けて日本政府の代表は「『佐渡島の金山』におけるすべての労働者、特に朝鮮半島出身労働者を誠実に記憶にとどめつつ、韓国と緊密に協議しながら、『佐渡島の金山』の全体の歴史を包括的に扱う説明・展示戦略および施設を強化すべく引き続き努力していく」などと述べました。

会場では、新潟県の花角英世知事ら地元の関係者も審議を見守り、登録の決定を喜んでいました。

今回の決定で国内の世界遺産文化遺産と自然遺産あわせて26件となります。

花角知事「率直にうれしさでいっぱい」 

世界遺産委員会の開催地インドを訪れている新潟県の花角英世知事は審議の後、記者団の取材に応じ「率直にうれしさでいっぱいで、同時に安心した気持ちだ。この世界遺産を次の世代に引き継ぐための適切な保存に取り組むほか、世界遺産としての価値を多くの人に理解してもらい、交流人口の拡大につなげていきたい」と述べました。

また、佐渡市の渡辺竜五市長は「『佐渡島の金山』が持つ世界の宝とも言える価値を島民も含めて多くの人に知ってもらうことに取り組んでいく」と述べました。

佐渡市では集まった人から喜びの声 

佐渡島の金山」がある新潟県佐渡市に設けられたパブリック・ビューイングの会場では世界文化遺産への登録が決まると集まった人たちから喜びの声があがりました。

佐渡島の金山」の歴史などを紹介する佐渡市の施設に設けられたパブリック・ビューイングの会場には、およそ200人が集まりました。

そして「佐渡島の金山」の世界文化遺産への登録が決まると会場から歓声が上がり、集まった人たちが笑顔を見せていました。

会場で見守った地元の女性は「最高にうれしいです。登録まで紆余曲折があり長い時間がかかったので、やっと登録されたという思いです」と話していました。

別の地元の女性は「やっと登録され安心しました。佐渡には課題もありますが、それを解決して観光客がより楽しめる場所にしたいです。これからスタートになりますが、とにかくきょうはうれしいです」と話していました。

また佐渡市にあるすし店の店主の鶴間博之さんは「佐渡島の金山は地元の大事な場所なので登録が認められうれしいです。これから観光客が増えると思うので、満足してもらえるようにさらによいおもてなしをしていきたいです」と話していました。

地元にあるホテルでは、利用客に金ぱくを入れた甘酒をふるまい、世界文化遺産への登録を祝っていました。ホテルのおかみの深見聖子さんは「登録が決まり、涙ぐんでしまいました。観光客の増加が期待されますが訪れた人たちに心地よく過ごしてもらえるように、今後も変わらずに取り組んでいきます」と話していました。

佐渡世界遺産にする会”会長「喜びと同時に長かった」 

佐渡世界遺産にする会” 中野洸会長

今回の決定を受け、地元の佐渡市役所には懸垂幕が掲げられ、集まった市民などから拍手が起きていました。

佐渡市観光振興課の畠山和義課長は「市民の皆さんと登録の喜びを分かち合いたいと思い設置しました。懸垂幕を見て改めて登録が決まったことを実感してほしいです」と話していました。

また、世界文化遺産への登録に向けて活動を続けてきた地元の市民団体“佐渡世界遺産にする会”の中野洸会長は「本当に喜びでいっぱいです。それと同時にここまで長かったというのが実感です。これからは『佐渡島の金山』をいかに保存して活用し、地元を豊かにしていくかが大切になっていくと思います」と話していました。

岸田首相「日本の宝から世界の宝に」 

岸田総理大臣はメッセージを発出し「わが国26件目の世界遺産として登録されたことをうれしく思う。大量かつ高品質な金生産を実現した『佐渡島の金山』は、世界的にも比類ないけうな文化遺産だ」としています。

そのうえで「世界遺産の候補地となって以来、14年もの間、多くの皆さんが待ち望んでいた喜ばしい知らせだ。新潟県佐渡市はじめ、これまで尽力してこられた多くの地元関係者の方々に心からのお祝いを申し上げる」としています。

そして「日本の宝から世界の宝となった『佐渡島の金山』をこれからもしっかりと守り、将来に引き継いでいけるよう、地元関係者の取り組みを支援していきたい。多くの人にこの魅力あふれる文化遺産を訪れていただきたい。国内はもちろん、世界中のさまざまな人々が現地を訪れ、その価値に触れられることを期待している」としています。

上川外相「心から歓迎 長年の地元の努力に敬意」 

上川外務大臣は談話を発表し、「心から歓迎するとともに、長年にわたる地元の皆さまの努力に深甚なる敬意を表する。登録を契機に、多くの人が佐渡島を訪れ、世界遺産としての価値がいっそう広く世界に知られ、評価されることを期待する」としています。
その上で「外務省として、世界中の方々に世界遺産の価値の理解が進むよう、関係省庁と連携して取り組む」としています。

盛山文科相「ゴールではなくスタート」 

盛山文部科学大臣は談話を発表し「世界遺産に登録されたことを大変うれしく思う。新潟県佐渡市をはじめとする地元関係者の皆様の長年にわたるご尽力に敬意を表したい。これはゴールではなくスタートだ。今後、地元自治体・関係者において『佐渡島の金山』の保護に引き続き万全を期すとともに、世界中の多くの人々が現地を訪れ、その魅力に触れることができるよう、価値の発信や受け入れ環境の整備などが進められることを期待している」としています。

“強制労働の場所”韓国が反発 政府が歴史展示へ 

佐渡島の金山」をめぐっては、韓国が「朝鮮半島出身の労働者が強制的に働かされた場所だ」として反発した経緯があります。

ユネスコの諮問機関「イコモス」は追加の勧告として採掘が行われたすべての時期を通じた資産に関する歴史の説明や展示戦略を策定し、施設や設備などを整えるよう配慮を求めていました。

これを受けて政府は、新潟県佐渡市にある「相川郷土博物館」で朝鮮半島出身者が徴用された歴史などに関する展示を行うことになりました。

展示されるのは、朝鮮半島出身者を含む労働者の出身地や暮らし、戦時中の過酷な労働環境について説明するパネルや、関係する資料です。

展示では1940年から45年にかけて、およそ1500人の朝鮮半島出身者が金山などで働いていたことや、朝鮮半島出身者は危険な作業に従事する割合が高かったことなどが紹介されます。28日から常設展示として一般公開されます。

日本政府「誠実に記憶にとどめつつ 引き続き努力」

今回、登録が決まったことを受けて日本政府の代表は「『佐渡島の金山』における全ての労働者、特に朝鮮半島出身労働者を誠実に記憶にとどめつつ、決議の勧告を忠実かつ完全に履行し、韓国と緊密に協議しながら、『佐渡島の金山』の全体の歴史を包括的に扱う説明・展示戦略及び施設を強化すべく引き続き努力していく」と述べました。

さらに「佐渡島の金山における全ての労働者のための追悼行事も、毎年、現地において執り行われる予定だ」と説明しました。

韓国「日本が約束を履行し 誠実な措置を」 

ユネスコ世界遺産委員会で委員国の1つを務めた韓国は、登録決定を受けて外務省が見解を発表し、「韓国政府は、『全体の歴史』の反映を求めるユネスコの諮問機関=イコモスの勧告や、世界遺産委員会の決定を、日本が誠実に履行し、そのための先行的な措置を取ることを前提に登録決定に同意した。今回の委員会で日本側が行った発言内容は、この数か月間、日本政府と行ってきた真剣な交渉の結果だ」としています。

そのうえで「日本が『佐渡島の金山』関連の展示における約束を引き続き履行し、誠実な措置をとることで、韓日関係の改善の流れが継続していくことを望む」としています。

世界遺産登録までの道のり 

佐渡島の金山」をめぐっては地元の新潟県佐渡市世界文化遺産への登録を目指し、ユネスコ=国連教育科学文化機関に推薦するよう政府に働きかけていました。

これを受けて、文化庁の審議会は3年前の2021年12月、推薦候補に「佐渡島の金山」を選定すると答申しましたが、選定は推薦の決定ではなく、政府内で総合的に検討すると異例の注釈をつけました。

背景には、韓国が「朝鮮半島出身の労働者が、強制的に働かされた場所だ」と主張していたことがあったとみられます。

政府・自民党内では、韓国が反発する中で世界文化遺産に登録されるか見通せないなどと推薦に慎重論がある一方、保守派の議員を中心に、「韓国の主張は不当なものだ」などとして推薦を求める意見も出されました。

賛否両論ある中、岸田総理大臣はおととし1月「佐渡島の金山」をユネスコに推薦することを決めました。

ところが、ユネスコから諮問機関のイコモスに推薦書が送られておらず、審査の手続きが進んでいないことが明らかになりました。書類の不備が原因でした。

その後、政府は、不備を指摘された部分を修正。去年1月に推薦書を再提出しました。

去年8月にはイコモスの調査員が現地を訪れ、保全管理の状況や地域の協力などについて確認するなど調査が続けられていました。

そして、ことし6月、ユネスコの諮問機関「イコモス」が4段階ある評価のうち上から2番目の「情報照会」の勧告をまとめ、日本政府に対し通知しました。

勧告では世界遺産への登録を考慮するに値するとしつつ、資産の範囲の修正などを求めていたため、政府は今月の世界遺産委員会での登録を目指し、新潟県などと協力して対応していました。