「兵庫県、恥ずかしい」パワハラ疑惑の斎藤知事、過去投稿に特大ブーメラン…それでも「改めて辞任する考えはない」自分勝手さ(2024年7月21日『みんかぶマガジン』)

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 兵庫県の斎藤元彦知事が「パワハラ疑惑」「おねだり体質」で窮地に立っている。疑惑を告発した文書を配布した前県西播磨県民局長の男性職員が死亡し、知事の最側近である副知事が引責辞任を表明したのだ。県職員労働組合は辞職を求め、県議会最大勢力の自民党も事実上の辞任要求を突きつけている。
 ただ、斎藤知事は「県職員との信頼関係を再構築し、県政を立て直す」などと辞職しない考えだ。3年前の知事選で「守るべきは守り、変えるべきは変えたい」と県政刷新を掲げて初当選した斎藤氏。2021年の兵庫県知事選挙の告示前にはXで「兵庫県、はずかしい」などと現状う憂う投稿し(その後投稿は削除)、物議を醸していたが、ブーメランとして戻ってきた形だ。
 経済アナリストの佐藤健太氏は「数々の疑惑に対して説明責任を果たせないならば辞職は避けられないだろう」と指摘する――。
政治家が利用する「民意」という言葉の違和感
「前回の選挙で多くの負託を私自身いただいた。コロナ後の新しい兵庫県に向けて、より良い県政を目指していくということが私の責任だと考えている。今後、百条委員会、第三者委員会などを通じて今回の問題の調査への対応をしっかり行っていく。その上で県職員との信頼関係を再構築し、県政を立て直していくことは時間がかかるかもしれない、道は険しいかもしれないが、前に進めていくことが私の県民の皆さんに対する知事としての責任の果たし方だと考えている」
 斎藤知事は7月16日の記者会見で改めて辞任する考えはないことを強調し、その理由の1つに前回知事選における「民意」をあげた。
斎藤氏の言う「民意」は3年前のもの
 一見すると当たり前のように思えるかもしれないが、政治家が頻繁に利用する「民意」という言葉には違和感を覚えてしまうのは私だけではないだろう。
 20年ぶりの新顔対決となった2021年7月の知事選で、元大阪府財政課長の斎藤氏は自民党日本維新の会の推薦を受けて初当選を果たした。吉村洋文府知事や自民党西村康稔経済再生相(当時)らが全力支援し、前副知事らを退けた。「新しい兵庫をつくる」と掲げた斎藤氏は神戸市出身の元総務官僚で、新潟県佐渡市福島県飯舘村宮城県にも出向した経験を持つ。維新にとっては「大阪以外で初の維新系知事」であり、その手腕に期待を集めていたはずだ。
告発文には「知事選で幹部職員らが斎藤氏への投票を依頼」
 投開票の結果、斎藤氏は約86万票を獲得し、次点に25万票以上の差をつけている。得票率は46.9%だ。たしかに斎藤氏は「民意」を背景に県政運営を担うことになったのだが、この時と今は決定的に状況が異なる。言うまでもなく、「パワハラ疑惑」「おねだり体質」を県民が想定していなかったからだ。
 つまり、斎藤氏の言う「民意」は3年前のものであって今のものではない。それを1つの理由として明確な説明責任を果たそうとしない姿勢は極めて残念と言える。
 もう1点、斎藤知事の姿勢に疑問を抱くのは「コミュニケーション不足」を反省点としていることだ。これまでの記者会見で斎藤氏は「これまで県職員はじめコミュニケーションが不足していた点は真摯に反省しなければならない。感謝の気持ち、ありがとうという言葉だったりとか丁寧にさせていただくことが大事と思っている」などと説明してきた。
 だが、元局長が斎藤知事の「違法行為」を告発した文書について、斎藤氏は「ウソ八百含めて文書をつくって流す行為は公務員失格」などと発言した。文書では「知事選で幹部職員らが斎藤氏への投票を依頼」「斎藤知事が地元企業のコーヒーメーカーを受け取っていた」などと指摘されているが、いずれも斎藤氏側は違法性や事実関係を否定している。もちろん、文書の内容がすべて正しいか否かは現時点では分からない。
告発した元局長は停職3カ月の懲戒処分が下された
 ただ、3月中旬に元局長が「告発」した後、斎藤知事は3月27日には「ウソ八百」と強い表現で否定した。そして、5月7日には県が内部調査の結果として文書内容は事実無根であり、誹謗中傷にあたると認定。元局長は県政の信用を著しく損なわせたとして停職3カ月の懲戒処分となった。斎藤知事は「改めて公務員倫理の徹底を図り、風通しのよい職場づくりに努める」とのコメントを出している。
 斎藤知事は4月の会見で「公益内部通報制度では受理していない。公益通報には該当しない」と述べているのだが、これは極めて重要な点である。仮に元局長の「告発」が公益通報に当たるのであれば、通報した元局長が不利益な取り扱いを受けることがあってはならないからだ。この点も含めて、県議会の百条委員会や第三者機関による調査では明らかにされるべきだろう。
その後元局長が遺体で発見…最悪の展開に
 加えて、県幹部だった男性が「告発」したことについて、県のトップが「ウソ八百」と言ってしまえば、これから不正があった場合に公にしようとする内部告発は事実上封印を余儀なくされてしまうのではないか。
 斎藤知事は会見で「今回の文書問題に関する最初の私の発言については文書の内容に明らかに違うことが含まれているので、ああいう表現になったが、表現としては厳しい表現だったので反省している。表現を改めていきたい。内容については当事者として異なるということがあったので、きつい表現になったがしっかり反省していきたい」と述べているが、地方自治に通じた元総務官僚とは思えない対応だったのは間違いないだろう。
 元局長は百条委員会に出席予定だったが、7月7日に死亡しているのが発見された。自殺とみられている。記録していた録音データなどには斎藤知事が公務中に県内の首長に酒をおねだりしていたとみられる部分も残されているという。元局長が亡くならなければならなかった背景を思えば、反省点としてトップが「コミュニケーション不足」などという言葉を浮かべるのはあまりに軽く感じてしまう。
最側近の片山安孝副知事は辞職を表明
 斎藤知事の最側近である片山安孝副知事は7月12日の記者会見で「県政の停滞などさまざまな影響が出ている」として辞職する意向を表明した。片山氏は斎藤氏にも辞職を進言したものの、「『任期を全うして頑張りたい』との理由で拒否されたという。片山氏は百条委員会からの出頭要請があれば応じる意向であり、そこでは「ウソ八百」なく事実関係が明らかにされることを期待したい。
 思い出すのは、2023年5月に女性職員に対するセクハラ疑惑が報じられた岐阜県岐南町の町長をめぐる問題だ。第三者委員会は調査報告書で少なくとも99のセクハラ行為を認定し、辞職を求めた。だが、町長が発した言葉は「僕は選挙で選ばれた人間。第三者委員会が辞職をなんで促すのか」というものだった。
 さらに町長は「民間やったらクビやぞ」「俺もこけにされてまったでな。こんな課はもう解散する」などと発し、パワハラ行為に該当することが明白とされた。毎回、自治体のリーダーのセクハラ・パワハラ疑惑が浮上するたびに思うことは、やはり公益内部通報の仕組みをきちんと整え、通報者が守られることの重要性だ。
「守るべきは守り、変えるべきは変えたい」のなら「民意」を改めて問うべき
 首長は選挙での「民意」を背景に部下である職員らに絶大な権限を行使する。だが、そこに違法性が疑われる言動があった時、職員が「公」のために通報することを躊躇してしまうような組織であってはならない。通報者が不利益を受ける組織は問題外だろう。そこは職員との間にも、議会との関係も一定の緊張関係を持つことが必要と感じる。
 斎藤知事をめぐる疑惑はまだ事実関係が明らかにされてはいない。だからこそ、斎藤氏は百条委員会などで自身の説明責任をしっかりと果たすべきなのだ。「コミュニケーション不足」を悔やむのは、その先のことだろう。
 3年前の知事選で「守るべきは守り、変えるべきは変えたい」と掲げた斎藤氏。今は何を「変え」「守ろう」としているのか。県政が停滞し、信頼を損なっている以上、大切にしてきた「民意」を改めて問うことをオススメしたい。