「からき世を渡る七色唐がらし…(2024年7月19日『毎日新聞』-「余録」)

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「18歳未満は食べるの禁止‼」との注意書きが添えられた激辛ポテトチップス=磯山商事のホームページより
 
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1980年代半ばには激辛食品が次々に登場してブームになった
 「からき世を渡る七色唐がらし百(もも)さへづりに声からしつつ」。浮世絵など町人文化が栄えた江戸時代後期の文政年間。神田明神そばに店を出した初老の女性七味売りが立て板に水の売り口上で人気を博した。辛さとかけた狂歌が伝わる
▲タバコと同様にコロンブスが新大陸から持ち帰った唐辛子は日本にも伝わり、各地で栽培されるようになった。京都・伏見や日光、江戸では四谷が名産地として知られ、鷹(たか)の爪(つめ)、八房(やつぶさ)など独自の品種も生まれた
▲唐辛子はカレーやマーボー豆腐、キムチなど辛さを味わう料理を生んだが、日本では七味など薬味として使われた。淡泊な素材そのものの味を好んだご先祖だ。ピリ辛の刺激で十分だったのかもしれない
▲激辛ブームが起きたのは1980年代半ば。2倍、5倍と辛さを選べるカレー店がにぎわい、激辛スナックも発売された。近年は世界的に激辛ブームが広がり、SNSに「激辛チャレンジ」の動画が投稿されているという
▲そんな影響もあるのだろうか。市販の激辛ポテトチップスを食べた都立高校生14人が体調不良を訴えて病院に運ばれた。唐辛子の辛み成分カプサイシン神経細胞を刺激して灼(しゃく)熱(ねつ)感を引き起こす。過剰摂取は危険だ
▲スパイスを好むのは季節の変化が少ない南方の国といわれてきたが、日本も季節感が薄れてきた。気候変動の影響もあるのだろう。梅雨明け直後からの猛暑の予報に辛い料理に手を伸ばしたくなる。「正しい激辛の楽しみ方」を学ぶべき時代なのかもしれない。