障害者ホーム不正 監視の強化で質の確保を(2024年7月12日『西日本新聞』-「社説」)
障害者を食い物にした組織ぐるみの犯罪的行為である。福祉の場から「退場」を命じられたのは当然だ。
障害者向けグループホームの大手運営会社「恵(めぐみ)」が、利用者から食材費を過大徴収するなど悪質な不正を行っていたことが分かった。
同社のホームは愛知を中心に福岡など12都県で100カ所を超える。うち福岡を含まない77カ所で、利用者から集めた食材費を一部しか現場に渡さず、会社が約3億円をピンハネしていた。
「パンフレットでは1食数百円と書いていたのに、実際は1食30円の予算しかなかった」「利用者がどんどん痩せていった」など関係者の証言に強い憤りを覚える。
利用者の大半は重度の知的、精神障害者である。意思表示が容易でない人の弱みにつけ込んだ、卑劣な経済的虐待だ。重度者のホームは急増しているもののいまだ少なく、告発すれば行き場がなくなると我慢してきた利用者や家族もいるのではないか。
勤務実態のない職員の報酬を水増し請求していたことも判明した。
一連の不正は利益最優先の経営方針が背景にあったという。同社の責任は重大だ。悪質業者の参入を許し、不正をすぐに見抜けなかった国や自治体の責任も免れない。
同社が急成長の足掛かりにした重度障害者向けグループホームは、国が2018年に制度化した。大規模な入所施設から、住み慣れた地域で自宅のように暮らせる「地域移行」の一環だ。親の高齢化もあり、需要が伸びている。
事業者が参入するハードルの低さは当初から懸念されていた。実績や経験が不十分でも、書類で要件を満たせば研修もせずに開設できる。この4年間で6倍近くに急増し、全国で千カ所を超えた。
量とともに質を確保しなくてはならない。開設前の審査を厳格にすべきだ。
25年度には家族や地域住民らが外部評価する会議の設置が各ホームに義務付けられる。透明性を高め実効性のあるものにしてもらいたい。
九州では福岡市内の3カ所で約30人が暮らす。利用者が行き場を失うようなことがあってはならない。国と自治体は事業者任せにせず相談や住居の確保に対応すべきだ。
障害者ホーム不正 チェック体制見直し図れ(2024年7月9日『産経新聞』-「主張」)
障害者向けグループホームを運営する「恵」本社が入るビル=東京都港区
障害者向けグループホームの大手運営会社「恵」が、利用者から過大な食材費を徴収する一方、利用者に対しては、はるかに安価な食事しか提供せず、差額を法人の収益に計上していた。
福祉の現場にあるまじき、卑劣な運営である。障害者の弱みにつけこむもので絶対に許されない。
恵に対し、愛知県と名古屋市は県内のグループホーム5カ所の指定取り消しを決めた。厚生労働省は組織ぐるみと判断し、12都県にある恵のグループホーム99カ所に障害者総合支援法に基づく「連座制」の適用を決めた。食材費の流用は同法に違反する。厳格な処分は当然だ。
優先すべきは利用者保護だ。事業所の閉鎖などで行き場を失わぬよう、関係自治体は受け入れ先の確保に全力を挙げてほしい。指定が当面継続する事業所では、適正なサービスが徹底されなければいけない。
障害のある人の生活は、大規模施設での集団処遇から、地域生活に移行する流れがある。グループホームはその一つで、一般的な住宅で運営され、障害のある人がスタッフの手を借りて少数で共同生活を営む。
常勤職員はいても外部の目が入りにくく、定期的な検査が欠かせない。だが、徹底されていないのが現状という。
運営に問題があっても、利用者本人や預ける立場の親族は事業者に強く要望しにくい。利用者らのSOSを、行政は積極的にくみ取る必要がある。
地域社会との接点を密にすることも重要だ。利用者らが祭りやバザーに参加し、歓迎されている地域もある。住民と行き来する風通しの良さは、不適切な処遇を早期に発見する一助になるだろう。