女性トップの誕生 法曹界を変える原動力に(2024年7月12日『毎日新聞』-「社説」

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検事総長に就任し、記者会見をする畝本直美氏=東京都千代田区で2024年7月9日午後7時55分、渡部直樹撮影
 司法の役割は、法によって社会正義の実現を図り、人権を守ることだ。多様な人材が携わるのが望ましい。
 
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インタビューに答える日本弁護士連合会の渕上玲子会長=東京都千代田区で2024年5月16日午前11時2分、宮本明登撮影
 検事総長に畝本直美(うねもとなおみ)氏が就任した。4月には、日本弁護士連合会の会長に渕上玲子(ふちがみれいこ)氏が就いた
 法曹三者と呼ばれる裁判官、検察官、弁護士のうち、二つの組織で初めて女性がトップを務めることになった。
 畝本氏は「男性であっても女性であっても、このポストに期待される役割は同じ」と述べる一方、「誰もが働きやすい職場環境の構築に取り組みたい」と話した。
 渕上氏は「司法の世界だけでなく、社会全体の男女差別をなくす役割を課せられている」と語り、選択的夫婦別姓制度の実現を日弁連の目標に掲げている。
 残るのは裁判所だ。
 最高裁長官には、地裁や高裁の裁判官を務めて最高裁判事になった人が登用されるのが慣例になっている。次期長官に決まった今崎幸彦(いまさきゆきひこ)氏も同様の経歴だ。
 これまでに最高裁判事になった女性は9人いるが、裁判官出身者はいないのが実態である。
 法曹界では男性優位の状況が続いてきた。1940年に初めて女性の弁護士が誕生した。裁判官や検察官への門戸が開かれたのは戦後になってからだ。
 放送中のNHK連続テレビ小説「虎に翼」では、法律家を志した女性が直面する理不尽な事態や苦難が描かれている。
 一線で働く人からも自身の体験を重ねた声が聞かれる。不平等の歴史を身をもって知る世代の女性がリーダーになる意義は大きい。
 家族のあり方や環境問題などを巡り、新たな権利をいかに保障するかが問われている。法曹界の構成にも、社会の実相が反映されるべきだ。
 最新の男女共同参画白書によると、女性が占める割合は裁判官24%、検察官27%、弁護士20%にとどまり、いまだ低水準だ。
 特に、大きな組織に属さない弁護士は育休などが取りにくいという。働きやすい環境を整えていくことが欠かせない。
 時代の変化に対応し、社会の課題を解決していく。女性トップは法曹界の変革をけん引する役割を担ってほしい。
 
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