〈鹿児島県警・情報漏えい〉不祥事の発端となった医師会職員の“強制性交疑惑”。県警は捜査前から「事件にならない」と告訴された職員と元警官の父に伝えていた! 医師会幹部は「捜査は途中から一生懸命」と会見で口を滑らし…(2024年7月7日『集英社オンライン』)

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記者から非難が殺到
鹿児島県警の一連の不祥事の「発端」と指摘される、鹿児島県医師会職員(当時)の男性A氏による強制性交疑惑。被害を訴えた女性は2022年1月にA氏を刑事告訴したが、その前後に県警がA氏に「事件性はない」と伝えていたことがわかった。警察はなぜ、捜査を行う前から捜査対象である人物にこのようなことを伝えたのか。一連の事件の源流は、このときだった可能性がある。
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鹿児島県医師会による“不自然な経緯”
まずは、鹿児島県警による一連の問題を振り返っておこう。
「鹿児島県警に全国の目が向いたのは、今年3月に退職した県警元警視正で前生活安全部長の本田尚志被告(60)=国家公務員法違反罪で起訴=が、内部資料をフリージャーナリストに漏えいしたとして5月30日に逮捕されたことがきっかけです。
本田被告はその動機について、盗撮容疑がある現職警察官への捜査を県警トップの野川明輝本部長が止めたとし、『県警警察官の犯罪行為を、野川明輝本部長が隠蔽しようとし、いち警察官としてどうしても許せなかった』と主張しました。これが本当なら、本田被告の行為は秘密漏えいではなく、公益通報にあたる可能性があります。
しかも、県警が別事件の捜査名目で福岡のニュースサイト『ハンター』に行なった家宅捜索で押収した資料から、本田被告の“容疑”が浮上したことがわかりました。その後、多くのメディアが取材機関への強制捜査を批判し、問題はさらに拡大しました」(社会部記者)
「ハンター」へのガサの名目になった事件こそが、医師会職員A氏による強制性交疑惑から生まれたものだった。
「始まりは、民間病院に務める看護師の女性Bさんが、2021年8~9月に新型コロナウイルス感染者の宿泊療養所でA氏から計5回、強制わいせつと強制性交の被害を受けたと2022年1月に刑事告訴をしたことでした。
ところが県警の捜査が遅々として進まないうちに、A氏を雇用していた県医師会は2022年9月、調査委員会がA氏の主張に沿う形で、性行為は『合意の上である蓋然性が高いと思慮される』と結論づけたと発表しました。
肝心の県警の捜査はさらに遅れ、告訴から1年半も経った2023年6月になってA氏を書類送検しました。
これを受けた鹿児島地検は、2023年末に嫌疑不十分でA氏を不起訴としましたが、Bさんは検察審査会に審査を求め、民事でも損害賠償を求める訴訟をA氏相手に起こしています。
捜査機関が結論を出していないのに、捜査権限もなく性犯罪被害者の支援に長けているわけでもない医師会が、身内のA氏の犯罪を否定する結論を先に出し、結局A氏の刑事処分は見送られました。この不自然な経緯は、当時から注目されていました」(地元紙記者)
そして、A氏の立件回避を図る動きがあったと県警の内部資料を引用して報じていた「ハンター」を、鹿児島県警は4月8日に家宅捜索したというわけだ。ハンターが指摘する疑惑には、実体があったのだろうか。
県が「調査の進め方に問題があった」と糾弾
今回わかったのは、2022年1月にBさんが警察への告訴に踏み切った時期に、県警がA氏に「事件性がない」と伝えていたとみられることだ。
話したのは、県医師会の顧問弁護士を務める新倉哲朗氏。6月27日に県医師会の大西浩之副会長と立元千帆常任理事が開いた会見に同席し、明らかにした。
「Aさんから(自分が事情を)聞いたときに、Aさんが『県警にも相談に行きました』と。で、そのときに(A氏が)お父さんと一緒に行ったかまではわかりませんけども、『県警から事件性がないと言われたんです』という話をされていますから」(新倉弁護士)
実は、A氏の父は2021年3月に退職した元警察官だ。A氏と父は、Bさんが鹿児島中央署に告訴状を出したか出す準備をしていた時期に同署を訪ねており、署員から“事件にならないから安心しろ”と言わんばかりの言葉を聞いていたというのだ。鹿児島中央署はBさんの告訴状受理を一度は拒んでおり、当時は本格的な捜査は行われていなかった。
新倉弁護士はさらに、A氏から聞いた内容を医師会の当時の池田琢哉会長に伝えたとも話した。池田氏は新倉弁護士からこの報告を受け、Bさんの告訴から1カ月も経っていない2022年2月10日に、所管の県くらし保健福祉部を訪問している。
「このとき池田氏は、A氏と父親が警察に相談して『刑事事件には該当しないと言われている』と発言しながら、『強姦と言えるのか疑問』と主張しています。また、その12日後の2月22日には、当時常任理事だった大西氏も、医師会内の集まりで同主旨の発言をしています。
つまり、医師会最高幹部は調査委員会が動き出す前から、性行為は合意だったという方向性を外部にも口にしていたわけです。この経緯を、県は最後まで問題視しました」(鹿児島県関係者)
そもそも、いい大人であるはずのA氏が、なぜ父親を伴って警察に出向くのか。これについて立元氏は、会見で「告訴される、もしくは告訴されていると考えて中央警察署に行ったというふうにお聞きしています」と話した。
告訴されると考えて警察に出向いたのなら、自分に非はないと訴えに行ったのではないのか。そう問うと、立元氏は「そこの詳細については、私はさすがに当事者ではないので、わかりかねます」と言うだけだ。
その後、県医師会は2022年3月から7月までに、6回の調査委の会議を開催。前述のとおり、2022年9月に性行為は「合意の上」だったとする報告書を県に提出している。
「県への報告で医師会は、コロナ療養所での性行為は不適切だが、A氏は一定の社会的な制裁を受けたとして情状を酌量し、停職3カ月にすると伝えました」(鹿児島県関係者)
ところが、県はこの報告に強い不快感を示した。同じ関係者が続ける。
「性行為については、知事名の書面で池田会長に厳重注意が言い渡されました。しかし、それは表の話です。実は県は、調査自体に問題があったと口頭で厳しく注意しています。
関係者の聞き取り前から『行為が複数あった』『強制であったかどうか』との問題発言をした理事が調査委員会に入ったことを挙げ、『調査の進め方に問題があった』と断言しました。
さらに県は『実名が報じられたわけでもないA氏が、何をもって社会的制裁を受けたのか』と追い打ちをかけています」(県関係者)
県警の捜査は「途中から一生懸命になった」
県に糾弾された医師会調査のあと、県警はさらに9カ月の時間をかけ、2023年6月にA氏を書類送検した。そこで起きたのが、元県警巡査長・藤井光樹被告(49)=懲戒免職、地方公務委員法違反罪で起訴=による捜査情報の持ち出しだ。
書類送検の3日後から、藤井被告は『告訴・告発事件処理簿一覧表』など、この事件の捜査書類を複数回持ち出しました。本田被告に先立つ“第1の情報漏洩”と言えます。
これを入手した『ハンター』は、当時の鹿児島中央署長X氏が主導し、A氏の立件回避を図るかのような捜査指揮が行われたと、追及報道を本格化させたのです」(地元記者)
書類送検が行われたのにもかかわらず、藤井被告が書類をハンターに渡したのは、「不審な捜査指揮を明るみに出し、地検にまともな処分を促す狙いがあったのかもしれない」との指摘が出ている。
これは、A氏が書類送検される直前の2023年5月に、藤井被告がBさんを支援する雇用主・C氏を突然訪ね、「自分は警察を代表する立場はないが、被害に遭われた女性に関しては、本当にうちの警察はよろしくない対応を取って、誠に申し訳ありません」と謝罪していたためだ(#2)。
この謝罪後に捜査情報を外部に持ち出した藤井被告は、ハンターへのガサ入れと同じ4月8日に逮捕されている。
県警はBさんの告訴を受け、きちんと捜査をしたのか。これについて県医師会・大西副会長は6月27日の記者会見の終了直後、県警の動きを問われ、次のような言葉を口にした。
「それは途中で方針が変わったんですよ。やっぱり、それは僕らもよくわかりませんけれども、僕らからしてみれば、警察はとりあえず調査を一生懸命して、途中から。そして判断を仰ごうと。上の方に。そういう形で書類を出したわけですよね」(大西氏)
警察が“途中から”一生懸命になったとは、何を意味するのか。真意を問おうとすると、医師会関係者が「軽々に言わんでいいですよ」と割って入り、大西氏の言葉は止まった。
鹿児島県警本部は、警察官がA氏に「事件性がない」と発言をした事実があるのかという質問に「個別事件に関することであり、回答を差し控えさせていただきます」と答え、否定も肯定もしていない。
一連の不祥事を受け警察庁は6月下旬から同県警に対し特別監察を始めているが、県警によると、強制性交疑惑の捜査は対象に含まれていない。膿を出し切るには、この問題にメスを入れるべきではないのか。
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取材・文 集英社オンラインニュース班