〈鹿児島県警・情報漏えい〉「さらしすぎとは思わない」性被害訴えた女性のチャットを会見で暴露した医師会は「ハニートラップ」とも発言し身内の性暴力を否定。記者からは「なぜそこまでするのか?」とツッコミも…(2024年7月7日『集英社オンライン』)

多くの記者が会見に「違和感」
鹿児島県警の不祥事に絡み、2021年に当時の県医師会職員A氏から強制性交の被害を受けたと看護師Bさんが訴えている問題で、県医師会が会見を開き、Bさんの主張を否定。性行為は「合意の上だった」と強調した。さらに会見では、その“証拠”としてBさんのチャットを暴露。医師会幹部は、Bさんが「ハニートラップと思われても仕方ない」行為をしたとまで口にし、会見は異様な空気になった。
 
私信を暴露した鹿児島県医師会の“異様”な会見
「医師会はなぜそこまでするのか」
6月27日、鹿児島県医師会館で大西浩之・医師会副会長と立元千帆常任理事が2時間近く行なった会見は、剣呑(けんのん)な空気に包まれた。2人の幹部に直接そう問い質したのは、地元で最大の発行部数を誇る南日本新聞の記者だ。
複数の記者が疑問を呈したのは、2021年8~9月に新型コロナウイルス感染者の宿泊療養施設でA氏から強制わいせつと強制性交を受けたと訴えるBさんが、A氏と同年10~12月に交わしたとされるLINE・メッセンジャーのやりとりや通話記録を含む大量の資料を医師会が配布し、これをスライドで大写しする中で会見を進めたことについてだ。
普段なら資料配布をありがたがるメディアだが、これに違和感を持ったのには経緯がある。
「Bさん側は2022年1月にA氏を刑事告訴し、医師会にも対応を求めました。これに対して医師会は同年9月、加害を否定したA氏の主張が正しいとし、性行為は『合意の上である蓋然性が高いと思慮される』という調査委員会の報告書を県に提出しています。
しかし県は、調査前から『行為が複数あった』『強制であったかどうか』などとBさんの訴えを取り合わない発言をしていた医師会理事が調査委に加わったことなどを挙げ、調査の進め方に問題があったと医師会に指摘し、当時から調査の公正性は疑われていました」(地元医療関係者)
県警は2023年6月になってからA氏を書類送検し、鹿児島地検は同年12月に嫌疑不十分で不起訴とした。Bさんは納得できないとして検察審査会に審査を求め、A氏に損害賠償を求める訴訟を起こしている状態だ。
医師会「事実に基づかない一方的な記事が散見される」
「これとは別に、県警巡査長の藤井光樹被告(49)=懲戒免職、地方公務委員法違反罪で起訴=がA氏に絡む捜査資料を持ち出す事件が起きました。鹿児島県警は情報漏洩事件として今年4月8日、藤井被告を逮捕し、問題の資料を元に記事を書いた福岡のニュースサイト『ハンター』を家宅捜索しました。
この際、偶然に県警が確保したデータの中に、今年3月に退職した県警元警視正で前生活安全部長の本田尚志被告(60)=国家公務員法違反罪で起訴=が北海道のフリージャーナリストに送った内部資料があり、この“第2の漏洩”に気づいた県警は、本田被告も逮捕しました。
ところが、本田被告が“情報持ち出しは、県警トップの野川明輝本部長が現職警察官による犯罪のもみ消しを図ったことが許せなかったからだ”と主張し、大騒ぎになりました。その流れで、そもそもガサの名目になった情報漏洩に絡み、A氏の強制性交疑惑の捜査や医師会調査が妥当だったのかどうかがクローズアップされるようになりました」(社会部記者)
こうした事情は前記事(#2、#3)で詳述した。そこで医師会は「鹿児島県警をめぐる一連の報道の中で、発端となったのが医師会の関与する事件で、県警と医師会が結託して事件を隠蔽したことから内部告発が来た、という主旨の事実に基づかない一方的な記事などが散見される」とし、これを否定するために会見を開いた、と立元氏は会見の冒頭で述べた。
 A氏が「シロ」、すなわち性行為が合意の上であったことが県警との結託がないことを示す前提となるため、大西氏は「今日言いたいことは、たった一つなんです。われわれ、“素人の裁判”と言われるかもしれませんが、強制性交はないと判断しております」と強調した。
それを証明するには、行為があったあともA氏とBさんが親密だったとアピールする必要があり、そのために2人の間の私信を公開したというわけだ。
通話記録や雇用主・C氏との資料まで配布
Bさんの弁護士は「当然、公開には同意してない」と猛反発している。
公表されたやりとりは、プライバシー侵害に加担する恐れがあり内容を詳しく紹介できないが、Bさんが人物を取り違えて噂話をしてしまったと釈明したり、打ち合わせのために会う時間を尋ねたりする内容だ。
会見では、日時が記された2人の通話記録や、Bさんを支援している雇用主・C氏とA氏とのやりとりに関連する資料なども配布された。医師会は、こうした資料がスライドで大写しにされた会見の映像を、YouTubeでも公開している。
会見で大西氏は、Bさんのチャットを読み上げ、以下のように強調した。
「2人の仲を、いろんな話をするなかで調査しました。非常に仲がいいと。仲が良すぎて、怪しいと思う者もいた」
「(2人は)非常に、毎日のように長い電話をしております。20分のときであったり、2時間のときであったりですね」
だが関係者によると、Bさんは当時体重が100キロ以上あった巨漢のA氏に抵抗できず、最初の被害に遭ったあとは「現実ではなく悪夢だ」と自分に言い聞かせ、療養施設への派遣勤務期間が終わるのを待った、と周囲に打ち明けている。
会見でも、性暴力の被害者が精神的な支配下に置かれ、加害者に迎合することがあるのではないか、と質問が飛んだ。
これに対し、大西氏は次のように述べ、委員会では性犯罪被害者の心理が考慮されなかったことをうかがわせた。
「迎合はよくわかりません、私は。あるということは、知っていますけれども、迎合というのがどの程度まであり得るのか、そういう形の関係をずっと、1カ月間続けられるものだろうか」
さらに、性行為の合意があったかなかったかは、行為のあとではなく事前の同意の有無を見て判断すべきだと指摘されると、
「行為の時点での合意があった、なかったは、本当に言い分がまったく食い違っていますから、それを証明することはできないんです」
とも言い切った。それでも、「いろいろな調査結果、こういったメールとか、それが違うと言われれば違うのかもしれませんが、いろいろなものを総合的に判断して、決して隠蔽しようとか、そういう意図はなく、正直にこういう結論であろうという結果を出した」と説明した。
ただ、公表された行為後のやりとりでは、Bさんが事前に性行為に同意していたことはうかがえない。ここに話が及ぶと大西氏は、今回公開した資料は自分が個人的に収集したもので、調査委にはこれ以外に多くの資料があるが、それを公開しろというなら「女性を貶めることになりますよ」というのだ。
「ハニートラップと思われても仕方がない経過がある」と発言
一方で関係者によると、鹿児島の女性県議のひとりが最近、Bさんの行為は「ハニートラップ」だと吹聴しているとの情報がある。
会見で記者のひとりがこの件に触れた際、大西氏は「申し訳ないんですけど、女性の矛盾がいっぱいあるなぁと思っているんですけど、男性の供述を詳細に、これは調査委員会の話ですから言えませんけど、ハニートラップと思われても仕方がない経過があるわけです」とも発言した。
「言えない」はずの調査委の議論をわずかに示しながらBさんに問題があったとする話法は続き、ついには「私もその、調査委員会のなかで『これは女性の側の強制性交じゃないか』と言いました。弁護士さんたちに。でも弁護士さんは、ごめんなさいねこれ、言ったらいけないんでしょうけど、『それは、そこまでは言えない』と。そういうふうに言われたような経過もありますけど、具体的には言えません」との発言まで飛び出した。
会見ではチャットのやりとりなどを医師会が資料として配ったことに対し、記事の冒頭のように「医師会はなぜそこまでするのか」という疑問の声が出た。これに常務理事の立元氏は「さらしすぎではない」と反論している。公表した情報だけでは“強姦がなかったとの証明にならない”と別の記者が指摘したことが理由だと立元氏は述べた。
その反論の後に、大西氏の発言は踏み込んだ表現になっていった印象だ。性被害を受けたという女性の申し立ては虚偽だとの説明を、会見に出席したメディアが素直に受け入れないと見て、“説得”を強めようとしたのか。
A氏とBさんの間に合意があったかなかったかは、警察が疑念を持たれない形で捜査をしていれば、結論への疑問も少なかったはずだ。
だが、鹿児島県警は前記事(#3)のとおり、捜査を始める前からA氏に「事件性はない」と伝え、警察の捜査よりも先に捜査権も専門性もない医師会が身内のA氏を「シロ」だと決めつけた。これでどうやって疑念がぬぐえるのか。
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取材・文 集英社オンラインニュース班