「優生保護法は不良な子孫の出生を防止するという公益を目的としたもので…(2024年7月5日『毎日新聞』-「余録」)

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最高裁が国に賠償を命じた判決に喜ぶ鈴木由美さん(左端)ら原告と支援者=東京都千代田区で2024年7月3日午後、猪飼健史撮影
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優生保護法の下で強制された不妊手術について国に損害賠償を求める提訴を前に、横断幕を持って仙台地裁に入る原告団ら=仙台市青葉区で2018年1月30日午前10時半、喜屋武真之介撮影
 
 「優生保護法は不良な子孫の出生を防止するという公益を目的としたもので、意思に反し手術を実施しても憲法に違反しない」。好ましくない遺伝因子の排除を求める優生学の観点に立つ法律制定(1948年)の翌年、当時の法務府が示した見解だ
基本的人権の制限を容認した解釈は96年に母体保護法に変わるまでまかり通った。障害者ら約2万5000人が生殖能力を失う人権侵害が自由と民主主義を謳歌(おうか)する社会で放置された
▲27年前、スウェーデンで強制不妊が横行した過去の「闇」が明るみに出た。福祉先進国は調査委を設置し、補償に動いた。日本でも大きく報じられたが、足元を見つめ直すことにはつながらなかった
不妊手術を強いられた宮城県の女性が国を提訴して6年。最高裁が旧優生保護法の規定を違憲と判断し、国の責任を認めた。国が主張した「除斥期間」の適用についても過去の判例を見直して退けた
▲被害者の全面救済につながる画期的判決に原告たちも笑顔を見せた。だが、障害者の出産や育児には依然、高い壁がある。政府の謝罪や補償も大事だが、障害者が暮らしやすい社会の構築こそ、優生思想と決別する最大の課題だろう
優生学は20世紀前半の世界で広く受け入れられた。ナチスの専売特許ではない。「私たちが偏見や差別意識を持ち、集団の利益のために他者を生産性と効率で序列化するなら、いつでも復活しうる」。多様性を対抗軸と考える東北大の千葉聡教授(進化生物学)の「警句」である。