旧優生保護法訴訟、報われた長い闘い 「最高の日」原告ら喜び(2024年7月3日『毎日新聞』)

 ようやく長い闘いが報われた――。旧優生保護法(1948~96年)下での強制不妊手術被害を巡り、原告全面勝訴を言い渡した最高裁大法廷判決。16歳で手術を受けた飯塚淳子さん(70代、活動名)ら宮城県の原告たちは喜びをにじませるとともに、「被害者に直接謝罪してほしい。差別のない社会になってほしい」と国に訴えた。

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 「原判決を破棄する」。戸倉三郎裁判長が主文を読み上げた瞬間、会場の空気が沸き立った。閉廷の宣告とともに、原告席に座っていた飯塚さんは、新里宏二弁護団長と握手を交わし、ねぎらい合った。

 16歳で理由を告げられず手術を受けた飯塚さん。旧法改正後の97年から支援団体とともに救済を求める活動を行ってきたが、国は「当時は適法だった」と責任を認めなかった。県が記録を廃棄していたため、提訴もできなかった。

 知的障害を理由に15歳で手術を受けた佐藤由美さん(60代、仮名)が2018年1月に仙台地裁に初の国賠訴訟を提起。その後、県が手術を認めたことから飯塚さんも同年5月に提訴し、2人の審理は併合された。

 だが、1・2審とも不法行為から20年で損害賠償請求権が消滅する「除斥期間」を理由に訴えは棄却された。最高裁で審理された5件の高裁判決のうち、4件は原告勝訴だったが、宮城の訴訟だけが敗訴していた。原告団の間にも「宮城だけ負ける場合もあるのではないか」と不安がよぎった。

 だが杞憂(きゆう)だった。最高裁が示した判決は、旧法被害を放置してきた国を厳しく断罪した。閉廷後の報告集会で、新里弁護団長は「被害者の声が社会を変えた。素晴らしい闘いだった」と飯塚さんたちをたたえた。

 提訴から6年あまり、由美さんに代わり、被害を訴える活動をしてきた義姉の路子さん(60代、仮名)は「これまでの負けがあったからこそ、今回の素晴らしい判決があったと思う」と振り返った。

 飯塚さんは「毎日長い間、苦しみながらここまで来ました。今日は最高の日です」と喜びを口にし、今回の判決を踏まえ「声を上げていない被害者は名乗りを上げ、国からの謝罪と補償を受けてほしい」と呼びかけた。【遠藤大志

 


優生保護法訴訟、ついに決着 被害者救済へ 今後の論点は金額(2024年7月3日『毎日新聞』)
 
 
 政府と与野党最高裁の統一判断を受け、不妊手術を受けた被害者に一時金を支払う救済法の見直し作業に入る。救済法をまとめた超党派議員連盟を中心に、今秋の臨時国会への法案提出も視野に検討を進める。大きな焦点となるのが、320万円とした一時金の金額だ。
 慰謝目的で支払われる一時金の金額は、強制不妊手術の被害者に対する補償金制度があるスウェーデンを参考に決められた。スウェーデンの補償額は「17万5000クローナ」で物価変動などを反映し、立法当時の価値に換算すると約312万円。訴訟で原告1人当たりの請求額は1000万円以上で、被害弁護団は「スウェーデンを参考にすべきでない」と主張していたが、最終的に320万円にまとまった。
 ただ、これまで原告側が勝訴した12地裁・高裁の判決では、不妊手術を受けた本人1人当たり700万~1650万円の慰謝料が認められるなど、一時金を大きく上回る判決が出ている。救済法をまとめた超党派議連の幹部は「救済法を改正するほか、金額を引き上げた新法を作り今の救済法と2本立てにする方法も考えられる。どのような措置が良いか議連で早急に議論し、今秋の臨時国会を目指したい」と明かした。