「そうだ。あの時の『夕食会』が、トリガー(引き金)となったのか」――。
今夏以降、政局の展開如何(いかん)によっては、自民党関係者が、後にそう思い至る可能性大である。
確かに、岸田文雄首相が固執した通常国会会期中の政治資金規正法改正案は成立した。一方、その代償は大きかった。この10日間で岸田氏を取り巻く党内情勢は激変した。首相の専権事項である衆院解散権を封じられただけでなく、9月総裁選前の退陣を求める声が噴出している。
要するに、四面楚歌(そか)の状態にあるのだ。
先(ま)ず「第一面」だ。2021年10月の政権発足から一貫して支えてくれた麻生太郎副総裁の激烈な怒りを買ったこと。規正法改正実現に目を奪われ、公明党が求める高い政治改革要求に譲歩が過ぎた。
「第二面」は、言うまでもなく党内の中堅・若手から総スカンを食らったこと。衆院当選4回以下の要求は「次の選挙で勝てる『顔』に交代すべき」で一致する。それだけではない。派閥の呪縛が解けたこともあり、党員・党友を含む総裁選の実施を求め、且(か)つ独自候補擁立に動く。齋藤健経産相(衆院当選5回)、小林鷹之前経済安保相(同4回)の名前が挙がる。
「第三面」は、岸田官邸が「自公維」を念頭に規正法改正問題で取り込んだつもりだった日本維新の会も怒らせてしまったこと。何と、維新は19日の参院本会議で改正法案に反対票を投じ、首相問責決議案まで提出した。
さて、「第四面」も深刻である。自民党の地方組織や各県・市・町・村議会議員からの「辞めろコール」が相次いでいること。
かつて、有力政治家の代名詞は「党人派」だった。この系譜に連なる地方議員からの批判は堪えるはずだ。
彼らは市議・県議でキャリアを重ねて晴れて国会議員となる。党政調会の各部会や、各調査会で専門領域を見つけ「族議員」となる。閥務で汗をかきつつ、部会長→調査会長(代理)→副幹事長(政調副会長)などを経る中で当選回数を重ねて閣僚適齢期を迎える―。こうしたシニオリティ・システムの構成員からの「声」なのだ。
だが、岸田氏は国民民主党の玉木雄一郎代表の指摘に対し、「私自身は四面楚歌であるとは感じていない」と突っぱねた。
冒頭の「あの時の夕食会」に戻る。6月6日、東京・麻布十番の寿司店「おざき」に菅義偉前首相、萩生田光一前政調会長、加藤勝信前厚労相、武田良太元総務相、小泉進次郎元環境相が蝟集(いしゅう)した事を指す。規正法改正案の衆院通過に合わせて菅氏が招集した。そう、「岸田おろし」を仕掛けたのである。 (ジャーナリスト 歳川隆雄)