「岸田スルー」で動き出した自民党 岸田首相は「究極の鈍感力」で対抗できるのか(2024年6月23日『日刊スポーツ』)

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自民党仕事始めに出席する麻生太郎副総裁(左)と岸田文雄首相(2024年1月5日撮影)
 
裏金問題を抱える自民党の覚悟が問われた政治資金規正法改正の内容が、期待外れでスッキリしない形のまま、1月に始まった通常国会が今日6月23日、会期末を迎え正式に閉幕した。この半年近い時間の間には、岸田文雄首相が衆院解散・総選挙に打って出るんじゃないかの見方もあったが、肝いりの定額減税などの物価高対策、政治資金規正法改正の議論は国民の支持を得られず、支持率はだだ下がり。昨年の今ごろは、地元広島で行ったG7サミットの効果もあり支持率も上昇傾向だっただけに、隔世の感がある。
岸田首相は「解散カード」を手にしながら、結局解散に踏み切らなかった。今は「解散したいと思っているのは総理だけ」(自民党関係者)と、身内でも突き放した空気が圧倒的。首相自身は周囲で厳しい声が広がっても「やる気満々」といわれてきたが、野党はもちろん、自民党内でも「岸田首相を大将に、次の選挙を戦うことはない」という認識が広がりつつある。
長く永田町を見てきた関係者に話を聞くと、今の岸田首相は、かつて不人気で政権を去った2人の総理大臣に重なるという。
1人は森喜朗氏。病に倒れた小渕恵三氏の後継で就任したが、内閣発足からほどなく20%台に落ち込んだ調査もあった。失言や危機管理力への疑問もあり、政権末期は10%~20%台と低迷したまま。今、当時の森氏と同じような数字の低支持率にあえぐ岸田首相は「国民から批判される首相は多くても、批判以上の『嫌悪感』を持たれてという面で、森さんに近いのではないか」という。
そして2人目は麻生太郎氏。麻生氏は就任直後に、衆院解散に踏み切るとみられながら、当時深刻だったリーマン・ショック対応や周囲の反対もあり踏み切らず、結果的に追い込まれる形で解散した。そして、民主党に政権を奪われ野党に転落した。目立った失態こそなくても失言やバー通いなどで、こちらも支持率は低迷。政権発足から半年たたないうちに、1桁に落ち込んだ調査もあった。その麻生氏は、解散直前に行われた東京都議選で10議席減らし、民主党に敗れた。全国の主要選挙で負け続けている岸田首相に、その姿が重なるという。
先日の当コラムで、6月19日の党首討論で岸田首相が、かつての野田佳彦首相のような「解散宣言」をするかどうか、と書いたが、結局、自分自身から勝負を仕掛けることはなかった。討論での言葉に迫力はまったく感じられず、いらだちや挑発も目立ち、総理としての「王道」的な雰囲気もなかった。立憲民主党泉健太代表とのやりとりでは、「禁止、禁止、禁止というのは気持ちいいだろうが」「政治にコストがかかるのは当然」と「政治とカネ」で開き直ったかのような言葉を口にし、だれに聞いて欲しいのかは分からないが、唐突に憲法改正をめぐる国会の議論について口にし、どこかがちぐはぐ。党首討論を「見せ場」とはとらえていなかったのかもしれない。
野党の2党首から解散や総辞職を突きつけられると、こわばったような笑顔で拒否したが、自民党席から首相を後押しするような拍手は少なく、身内の中でも孤立している現実が露呈したようにも感じた。
そんな岸田首相には、党内からも「退陣論」が出始めた。前回の総裁選で、岸田首相に引きずり下ろされる形となった菅義偉前首相の地元や、派閥解消や裏金問題の対応をめぐって「トロイカ体制」の瓦解(がかい)もうわさされる麻生太郎副総裁や茂木敏充幹事長の派閥の議員からということで、秋の総裁選をにらんだ政局的な発言であることは差し引いても、岸田首相への「嫌悪感」はもう隠しようがなく、足元からにじみ出ているようだ。
党首討論の時もそうだったが、21日の記者会見でも、岸田首相の表情はこわばっていた。記者会見で指摘されると「そう見えるとすれば私の不徳の致すところ。気力は十分みなぎっており、やる気、気力はこれからもしっかり示したい」と述べた。党首討論で、国民民主党玉木雄一郎代表に「四面楚歌(そか)」と指摘されても「四面楚歌とは感じない」と突っぱねた。
これまで首相は「究極の鈍感力」(自民党議員)で乗り切ってきた部分もあるが、自民党内はすっかり「岸田スルー」の様相を見せている。衆院解散どころか、秋の自民党総裁選に再選出馬できるのか、そんな土俵際まで追い込まれている。岸田首相に、抗う力はどこまで残っているのだろうか。
【中山知子】(ニッカンスポーツ・コム/社会コラム「取材備忘録」)