障害者に「活躍の場」で雇用拡大 コーヒーチェーンが新規商品用の焙煎所立ち上げ(2024年6月26日『産経新聞』)

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焙煎所では、基準より焦げている豆や小石などの異物を取り除く作業などを行う=12日、港区(村田幸子撮影)
法定雇用率が4月に引き上げられた中、企業は障害者の働く場のさらなる確保や幅広い仕事を任せてやりがいを高める取り組みに力を入れている。一般的に事務やデータ入力などでの採用が多いが、商品づくりに携わってもらおうと新事業を立ち上げた企業もある。都内企業の実雇用率は年々増加傾向で、専門家は「障害者を特別枠で考えるのではなく、必要な業務内容で雇用したいと考える企業が増えてきた」と評価する。
仕事に魅力
「珈琲館」などのカフェチェーンを運営する「C-United」(東京都港区)の本社1階で3日にオープンした焙煎所では、障害者雇用枠で採用された従業員の男女が和気あいあいと作業していた。
内部障害を抱える従業員の男性は、2年前まで一般企業に勤務し、一般雇用枠で販売系の接客などを担っていた。だが、障害が原因で入院が増えると社内の周囲の反応が変化。厳しい視線を向けられ、「受け入れてもらえないんだ」と感じ、体調面も含めて復職は難しいと、退職を決断した。
障害者雇用枠では事務系の募集が多かったが、C-Unitedの焙煎所では専門家から技術を学べる上に、「お客さんの顔が想像できる仕事」という面にもひかれ、応募を決めた。大切な商品づくりに携われることに、男性は「事業に貢献している実感を持ちながら仕事ができる」と笑顔を見せた。
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カフェチェーンを運営する「C-United」(港区)が東京本社1階の一角にオープンした焙煎所(同社提供)
現在、焙煎所では計8人の障害者が働く。業務は、生豆の配合から焙煎、梱包、発送などで、商品は珈琲館の一部店舗などで販売される。焙煎の専門家が必要な技能を指導するなど、知識がなくても安心して働ける環境が整えられている。
障害者は不得意なこともあるが、得意な分野では高いスキルを発揮して斬新な提案をすることもあるといい、男性は「それが多様性でもあり、個性でもある」と力を込めた。「どの企業、業種にとってもプラスになる面があり、障害者が活躍できる環境を整えていく必要がある」
貢献を実感
同社が焙煎所を開設するにあたって重視したのは、単に就業機会を増やすのではなく、従業員のやりがいを高め、働きやすい環境を整備することだ。そのために、社内全体で障害者への理解向上にも取り組む。
同社の人事担当は、「一緒に働くことで、障害者への理解を深めていきたい」と、社員の視野を広げる効果も期待する。同社の友成勇樹社長は、「飲食業で働く喜びと楽しさを感じてもらいながら、このプロジェクトをビジネスとしても成立、持続させていきたい」と新規事業の展望を語った。
質的にも変化
法定障害者雇用率は4月に2・3%から2・5%に引き上げられ、令和8年7月に2・7%になる。厚生労働省東京労働局によると、5年の都内の実雇用率は前年比0・07ポイント増の2・21%で過去最高を更新したが、障害者の雇用拡大と働く場の受け皿の確保は依然課題となっている。
企業の障害者雇用コンサルティングを行う「障害者雇用ドットコム」代表の松井優子さんは、実雇用率の向上の背景を「企業で普通に採用する人材として捉える企業が増えてきた」と分析する。
今後も雇用拡大は続くと予想し、障害者が働きやすい環境の創出には「お客さん扱いしないこと」を挙げ、障害者が抱える障害に配慮しつつも、他の社員と対等に接することが重要だとする。
労使双方にとってプラスにしていくには、採用時のミスマッチを防ぐことも必要で、松井さんは「企業側はどんな人材が欲しいか、どういう業務を担ってもらうのか明確にすることが大切だ」とした。(村田幸子)
内部障害 身体障害の一種で、内臓機能の障害のこと。身体障害者福祉法では、心臓機能、腎臓機能、呼吸器機能、ぼうこう・直腸機能、小腸機能、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)による免疫機能、肝臓機能―の7つの障害を内部障害と規定。就労などで活動が制限されることがあるが、外見からは分かりにくい場合が多く、周囲に理解してもらいにくい。厚生労働省による令和4年の調査では、内部障害者は全国で約162万人に上るという。