偽マイナカード システム全体を見直せ(2024年5月23日『東京新聞』-「社説」)

 偽造マイナンバーカードによる詐欺被害が相次いでいる。河野太郎デジタル相はカードの安全性を強調するが懸念は募る。マイナンバーのシステムが自治体で機能していない実態も判明した。制度全体の抜本的な見直しが必要だ。
 偽造カードによる詐欺は、大阪府八尾市議と東京都議らが被害に遭ったことで表面化した。
 偽造カードを身分証にして契約者になりすました第三者が、携帯電話の機種を変更して乗っ取り、クレジットカード情報などを盗用した。「SIMスワップ詐欺」と呼ばれる手口だ。
 これとは別に警視庁は千葉県内でカードの偽造現場を摘発し、中国国籍の男2人を逮捕した。
 詐欺事件を受け、河野氏は携帯電話販売会社の従業員の点検が甘かったと指摘。注意点を記した文書配布やカードの読み取りアプリ開発などを検討すると述べた。
 ただ、偽造カードは数年前から見つかっており、対策は遅きに失した感が否めない。今後、便乗犯が現れる可能性もある。
 政府の個人情報保護委員会は事業者向けのガイドラインで、個人番号の悪用や漏えいがあった場合「個人の権利利益の侵害を招きかねない」と警告している。
 マイナカードの裏面には12桁の個人番号が記されている。安易に見せないよう注意を促しつつ、携行が前提の本人確認書類として利用させる運用自体に無理があるのではないか。効率化を主眼とするデジタル化が民間に余分な作業を強いることも理解しがたい。
 会計検査院が11県とその全市町村を対象に、生活保護業務以外の1258機能の活用状況を照会したところ、約39%の485機能が全く使われていなかった。
 最新情報が反映されていなかったり、情報の照会に長時間かかったりすることなどが理由だ。
 自治体に広く活用されていないことは、システム設計の不備を示唆する。政府はシステムの整備や運用、カードの交付に約1兆1700億円を投じたが、その検証と抜本的な見直しが不可欠だ。
 こうした状況でありながら、政府は任意のはずのマイナ保険証の取得を強い、12月には現行健康保険証の廃止に踏み切る方針だ。
 しかし、マイナ保険証の利用率は4月も6・56%にとどまる。廃止を強行すれば、混乱は避けられない。方針撤回を重ねて求める。