骨抜き改革、首相に代償 深まる政治不信、自民に亀裂 ポスト岸田でうごめき〔深層探訪〕(2024年6月21日『時事通信』)

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首相官邸に入る岸田文雄首相=19日午前、東京・永田町
 世論の厳しい批判がやまぬ中、改正政治資金規正法が19日に成立した。岸田文雄首相は政治改革の実現のため「火の玉」になると宣言したが、改正法は骨抜きが目立ち、深刻な政治不信は払拭できないままだ。野党は政権交代を訴えて対決姿勢を強め、自民党内では「ポスト岸田」への動きが表面化。首相の政権基盤は揺らいでいる。
 ◇首相、世論に背
 「政治にコストがかかるのは当然だ。禁止、禁止、禁止で現実を見ない案であってはならない」。3年ぶりに開かれた19日の党首討論で、首相は改正法の成立を受け、開き直ったかのように語気を強めた。
 裏金事件の発覚後、首相は国民感情自民党のはざまで右往左往を繰り返した。1月に突如、岸田派解散を宣言した一方、3000万円近い不記載があった安倍派の萩生田光一政調会長の処分や、キーパーソンと目される森喜朗元首相への事情聴取は形ばかりに終わらせた。
 世論の逆風が収まらないと見るや、首相は党への配慮に傾斜。「裏金の温床」と指摘される政策活動費の見直しなどに消極的な姿勢が目立ち、さらなる反発を招いた。
 「規正法は会期内に成立させなければ」。法改正の審議が本格化した5月、首相は周囲にこう語った。ただ、法改正を急いだことが、皮肉にも権力基盤の亀裂を生む。政治資金パーティー券公開基準の引き下げで公明党案を丸のみしたことに、後ろ盾の麻生太郎副総裁が猛反発。「丸のみではなく間を取る交渉はしたんですか」。5月末、電話口でまくし立てる麻生氏に、首相は「ご理解を」と繰り返した。
 参院特別委員会での採決を前に、首相は18日、麻生氏、茂木敏充幹事長との「3者会合」に臨んだが、規正法は話題に上らなかった。同日夜には、麻生氏と二人きりで3カ月ぶりに会食。この後、首相は側近にほっとした口ぶりで「麻生さんと話ができてよかった」と語った。
 首相の姿勢を野党党首経験者はこう断じた。「身内に向いた首相の判断は失敗。政治家が汚いカネをため込んだという国民の記憶は全くぬぐえていない」
 ◇維新、国民も退陣要求
 19日の党首討論立憲民主党泉健太代表は、自民を「抵抗勢力」と位置付け、「規正法改正が良いか悪いか、信を問おうじゃないか」と衆院解散を迫った。これに対し、首相は憲法改正論議に触れ、「進めてもらうことを約束してもらえないか」と反撃する一幕もあった。
 もっとも、改憲などで政権への協力姿勢をにじませていた日本維新の会や国民民主党党首討論で、首相退陣を相次いで要求。維新の馬場伸幸代表は「もはやこれまで。責任を持って仕事ができる首相にバトンを渡してほしい」と突き放した。
 ◇石破氏らが勉強会
 自民内では19日、「ポスト岸田」と目される石破茂元幹事長、高市早苗経済安全保障担当相がそれぞれ勉強会を開いた。茂木氏も2012年の衆院選で初当選した国会議員らの会合に出席し、夜には首相と距離を置く菅義偉前首相と会食。党内では「茂木氏が総裁選出馬の動きを強めている」との見方が出ている。
 「岸田のほかに誰がいるんだ」と周囲に話していた麻生氏についても、ここに来て首相との関係をいぶかる声が増えつつある。
 立民は20日内閣不信任決議案を提出する。「自民内から欠席者が出たら、政権を取り巻く雰囲気は変わる」。政府関係者はこう漏らした。