まさかのタッグ結成!
東京都知事選で立候補を表明していた元自民党衆院議員の小林興起氏(80)が出馬をやめ、元航空幕僚長の田母神俊雄氏(75)の支援に回ると発表した。戦前回帰を目指す「伝統保守」を打ち出す田母神氏と、小池氏を倒すためなら蓮舫氏でも構わないと言う小林氏が“保守団結”を合言葉に結びついた形だ。他の保守系政党にも田母神氏を支援する動きが顕在化。非主流派保守の票の行方は――。
田母神氏の言う「戦前保守」と「戦後保守」の違い
「小林先生と話して、いま日本は保守が大同団結するときではないかと思ってですね、小林先生に『立候補やめて、私を応援してくれませんか』という話を持ち掛けて、一応ご理解をいただいたという状況であります」
東京・築地の事務所で小林氏と並んで始めた会見で、田母神氏は開口一番、小林氏が候補者一本化要請を受け入れたと明らかにした。
「私は伝統的保守主義者。戦前の日本にはいいとこいっぱいありました。これが全部戦争によってつぶされた。昔のいいところを取り戻し、国家を自立させようという保守ですね。
これに対し戦後保守の人たち、アメリカにつくられた戦後の状態を維持したいという人たちですね。そういう人たちは現体制によって利益を得ているから、昔に戻りたくないと思っている」(田母神氏)
米国式の民主主義に乗る保守と自分は違うと強調した田母神は、「(小林氏には出馬を)やめてもらうか、ということを無理やりお願いしたということであります」と述べ、笑顔を見せた。
ここでマイクを受けた小林氏は、小池氏への非難で口火を切った。
「絶対に政治をやってもらっては困るという人がいる。現職で一番日本国民に悪いことをした政治家はだれか、それは小池百合子なんですよ。若い人は知らないんですよ。
だけど彼女、何したんですか。郵政民営化! 日本を滅ぼす政策をね。世界で民営化してるとこなんかないんですから。消防や警察を民営化してますか? してないでしょ。郵便だってね、絶対民営化なんてできない」(小林氏)
「小さな政府」を志向した小泉純一郎内閣が推進したが、金融サービスなどを郵便局にしか頼れない地方の農村部を地盤とする議員が多い自民党からも猛烈な反発を呼び、関連法案は2005年7月に衆院で可決されたが翌8月には参院で否決された。
小林氏が小池都知事を毛嫌いする理由
要するに、小林氏にとって小池氏とは、小泉氏と並んで自身を自民党から追い出した不倶戴天の敵なのである。
「アメリカの言いなりになっては日本が滅びる。郵貯、簡保(の資金)、アメリカ人なんか貯金する人なんていないんだから、その金を俺によこせ、これが郵政民営化なんですよ。このくだらない民営化。権力がほしいやつでやったわけでしょ。一番は総理大臣の小泉さん。その側近中の側近、小池さんなんて、権力にしかしがみつかない」(小林氏)
小池氏の学歴詐称疑惑報道や東京オリンピックを舞台にした不正もまくしたてた小林氏は、司会者からまとめてくれと注文されると「そんな中で私は、本当の保守が立ち上がってまとまってやらなきゃいかんと思うでしょ。田母神さんが出てるんだったらね、やってもらったらいい」といい、明治神宮外苑の再開発事業に反対する考えでも一致しているからと、田母神氏を応援することに決めたと言ってようやく冒頭の発言を終えた。
ここで、「もう少し合意した政策について話してもらえないか」と質問が出たのに対し、小林氏は改めて「反小池」が一番であることを強調する。
「私に言わせると簡単なんですね。反小池で大同団結したかったわけですよね。だったら蓮舫さんを応援してもいいと思ったんですよ。だけど共産党っていうのが躍り出てくると、私もなんとなく、ちょっと距離を置いちゃうんですよね。
そうしたらもう、あと田母神さんしかいなくなっちゃうじゃないですか、保守が安心して応援できるのは」(小林氏)
田母神氏は「伝統的保守」の理念で、小林氏は「反小池」で、それぞれ大同団結したいと考えているもようだが、田母神氏は公約をそのまま維持する方向だ。
漫画家の成田アキラ氏が記者席から質問
ここで自民党以外の保守系政党との連携について、参政党や保守党との協議を始めているのかとの質問も田母神氏に飛んだ。これに田母神氏は「いや、まったくできてません。両方に頼んでもおかしいし、どちらかに頼むのもおかしいので」と応じ、組織的な連携の計画は当面ないと表明した。
しかし「応援したいという人は参政党からも保守党からも個人的に来てます。それはもう受け入れます。当然」とも話した。
別の政界関係者は「旧安倍派に代表される強固な保守思想に共鳴する人の間では、岸田文雄首相をはじめとする自民党現執行部への不満が高まっている。小池氏への支援を表明した自民党東京都連の萩生田光一会長は旧安倍派だが、知事選では小池・自民連合に同調しない保守が結集しないか、注視している」とも話している。
一方、会見では「田母神氏に経済政策で求めたいことがある」と意外な人物が記者席から手を上げた。漫画家の成田アキラ氏だ。
「このエロ漫画家がなんとかしないといけないと立ち上がったんです。田母神さんが、日本を救う最高の政策は積極財政出動だと第一番に打ち出している。(これを)大きく一回言ってもらいたい」
具体的な政策の質問に、田母神氏は「プライマリーバランスとか、財務省が長いこと言ってきて国民は騙されているんです。税を上げないと国の事業展開できないと。まあ、騙されてるんですね。国は通貨発行権があるからなんぼでも(通貨の供給が)できるんですよね。
どんどん公共事業とかをやって、景気が上向いてきたたら、これ以上インフレ率が高まるのがまずいな、となったら税金で回収すればいいんです。今みたいな実質収入が減っているときに税を取るというのは、本当に何考えてるんだと私は思いますね」と身を乗り出して答えるのだった。
会見後、成田氏にここまで駆けつけた理由をたずねると「僕はね、選挙が始まったら(田母神氏を)追っかけて行きますよ。応援演説にも立つ。どんどん応援していきます」と答えた。
小池知事VS蓮舫氏というビッグネーム同士の対決の中で、保守票がどう動くのかも目が離せなくなってきた。
取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班