経団連の「夫婦別姓提言」に異議あり(2024年6月17日『産経新聞』-「産経抄」)  

夫婦別姓がかなわなくとも、パートナーを守る方法はある
 経団連は「選択的夫婦別姓」の早期実現を求める提言を発表したが、法制化には国民の合意が必要だ
▼6月の第3日曜は「父の日」だったが、「母の日」に比べ影が薄い。父親の地位低下が指摘され久しい。
▼ゲームに押されて、子供のおままごと遊びはあまり見かけなくなったが、やってみてもパパ役はママにしかられ、オタオタする様子をまねするのだとか。「正論」を重んじる同僚も、家では言いたいことを言えず、妻や娘たちにおもねる日々だという。それも平和を守る知恵か。
▼だがこちらは黙って見過ごせない問題だ。経団連が「選択的夫婦別姓」の早期実現を求める提言を先日、発表した。十倉雅和会長は「国会でスピーディーに議論してほしい」と述べたが、拙速に進めては禍根を残す。
▼選択的夫婦別姓は夫婦で同じ姓(氏)にするか、旧姓を名乗るかを選べる制度だ。民法の改正などが必要となる。女性の社会進出に伴い、平成8年に法制審議会が導入を求める答申をした。30年近くたっても法制化に至らないのは、国民の合意が得られないからだ。財界が「急げ」と号令をかける話なのか。
最高裁は平成27年と令和3年に、夫婦別姓を認めない民法の規定について「合憲」とする判断を示した。夫婦同一の姓は社会に定着し、家族の呼称として意義があることを認めている。選べるならいいじゃないか、別姓を希望しない人には関係ない、と考えるのは早計だ。専門家からは、姓について家族の呼称から個人の呼称へと大きく変質することが指摘されている。
▼同じ戸籍に同じ姓の人を記載する戸籍の編製方法も見直す必要があり、社会全体にかかわる。夫婦同姓は子供も両親と姓を同じくすることで利益を享受しやすい意義もある。別姓では子の姓をどうするか。双方の祖父母も絡み、決まらない混乱も予想される。