“賞味期限”の過ぎた「小池百合子」にすがる萩生田光一氏 欲しいのは公明党との太いパイプ(2024年6月16日『AERA dot.』)

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東京都議会の本会議で都知事選への立候補を表明した小池百合子氏=6月12日
 東京都の小池百合子知事は都議会第2回定例会の最終日である6月12日、7月の次期都知事選に出馬することを表明した。これに先立つ1時間ほど前、すでに同知事選に出馬表明している蓮舫参院議員は、立憲民主党に離党届を提出した。
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【今では貴重写真】小池氏と蓮舫氏、笑顔のツーショット
 離党届を提出した後、蓮舫氏はテーマカラーの白ではなく、落ち着いたベージュのパンツスーツで記者団の前に現れた。それでもジャケットの襟を立てていたのは、蓮舫氏のこだわりゆえだろう。
 小池知事もテーマカラーの緑色ではなく、薄い藍色のジャケットで本会議に挑んだ。都知事選に初挑戦の2016年の出馬会見では色鮮やかな黄緑色のジャケットを羽織り、2020年には首に緑色が交じったペーズリー柄のスカーフを巻いていた。にもかかわらず、今回はテーマカラーを封印したのは、なんらかの決意ゆえなのか。実際に今回の都知事選は、小池知事にとって最も厳しいものになることが予想される。
■「アラビア語もしゃべれない」
 ひとつは小池知事が本当にカイロ大学を卒業したかどうかという学歴詐称疑惑だ。かつての側近の小島敏郎・元東京都特別顧問が文藝春秋2024年5月号で「学歴詐称工作に加担した」と爆弾告発し、カイロ時代の同居人だった北原百代氏も実名で同誌に登場した。また小池知事の父・勇二郎氏の窮状を救い、小池一家をカイロに移住させた朝堂院大覚氏が6月11日に記者会見し、小池知事はカイロ大学を卒業しておらず、アラビア語もしゃべれないと暴露した。
 次は“賞味期間”の問題だ。2020年の都知事選では366万1371票を獲得し、圧倒的な強さを見せた小池知事だが、翌2021年の都議選では自らが創設した都民ファーストの会議席を14も減らして第2会派に転落。2022年の参院選では、衆院議員時代の秘書で分身ともいえる荒木千陽氏が東京選挙区に出馬したものの、28万4629票しか獲得できず落選した。
 2024年4月の目黒区長選では小池知事の腹心といわれた伊藤悠前都議が当選を逃し、同月の衆院東京15区補選でも小池知事の代わりに出馬した乙武洋匡氏が9人中5位と惨敗した。また2議席を争った5月の目黒区都議補選では、小池知事が応援メッセージを出した自民党候補も落選している。
 それでも萩生田光一会長が率いる自民党東京都連は小池知事にすがっている。自民党は8年前の都知事選で同党所属の国会議員や地方議員に小池知事の応援を禁じ、家族や関係者が応援した場合でも処罰の対象としたが、2020年の都知事選では独自候補の擁立を断念。そして今や両者の力関係はすっかり逆転している。
■いまだ残る自公の根深い遺恨
 昨年12月の江東区長選で自民党は独自候補を擁立できず、小池知事が擁立した大久保朋果・元東京都政策担当部長に抱きついた。さらに今年1月に行われた萩生田氏の地元の八王子市長選では、小池知事の応援なくして自民党推薦の初宿和夫・元東京都人事委員会事務局長の当選はありえなかった。
 自民党は4月の衆院東京15区補選でも、小池知事が擁立した乙武氏に抱きつこうとしたが、「政治とカネ」問題の影響を嫌った乙武氏がこれを敬遠。その態度と乙武氏の過去の女性スキャンダルに地元が反発し、やむなく不戦敗となっている。
 しかし、次期都知事で、自民党に不戦敗は許されない。とりわけ萩生田氏は昨年、新設された衆院東京28区をめぐって公明党と壮絶なバトルを繰り広げ、同党の石井啓一幹事長から「東京での自公の信頼関係は地に落ちた」との厳しい言葉が投げられた。
 もっとも党首会談によって表面的には関係は修復されたが、いまだ根深く遺恨が残る。4万票以上の公明票を擁する衆院新東京24区を地盤とする萩生田氏にとって、公明党と太いパイプを持つ小池知事は次期衆院選で欠かせない存在といえるのだ。
 だから自民党東京都連は早くから、小池知事を推薦することを決めていたという。しかし公明党都民ファーストの会からの出馬要請を早々に受け入れたものの、「政治とカネ」問題の影響を懸念した小池知事は、自民党からの要請受け入れを渋っていた。とりわけ萩生田会長は、派閥のパーティーキックバック問題で不記載金額が2728万円にも上っている。
 そこで「確認団体」を介在させ、政党色を抑えて各党が小池知事を応援することになったわけだが、そこには2010年の参院選の東京選挙区で171万734票も獲得した蓮舫氏への対抗心が見てとれる。
■自民に不快感を示す国民民主の玉木代表
 蓮舫氏は小池知事が所信表明を行った5月29日に都議会を訪れ、各会派の事務所を表敬訪問。日本共産党の議員から花束を受け取ると、満面の笑みを浮かべた。同党東京都委員会は「蓮舫さんを都政へ押しあげ」とする機関紙「東京民報」6月号外を発行するなど、全力で応援する態勢を整えている。しかも同党は参院東京選挙区で2022年は68万5224票、2019年は70万6532票を獲得しており、手堅い組織票が期待できる。小選挙区で共産票をひそかに期待する立憲民主党衆院議員や1人区の参院議員にとっても、この協力関係は悪くない。
 だが立憲民主党本部としては、支持母体である連合の意向もあり、日本共産党とおおっぴらに接近することはなるべく避けたい。また国民民主党との連携を進めたい立憲民主党泉健太代表らの思惑にも、逆行することになりかねない。
 その国民民主党は、次期都知事選については静観を決め込むようだ。同党の玉木雄一郎代表は、自民党が小池知事に抱きつこうとしていることに不快感を示し、榛葉賀津也幹事長は日本共産党が支援する蓮舫氏を「御一緒できない」と切り捨てた。
 なお、独自候補の擁立を模索していた日本維新の会は、6月12日に断念を発表。いち早く出馬表明した石丸伸二・前安芸高田市長(広島県)に乗っかろうとしたとの噂もあったが、同日の会見で藤田文武幹事長は「(候補を立てるなら)勝たなくては意味がない」と、現時点では誰も推薦する予定がないことを明言した
 6月20日の告示まであとわずか。各陣営はほぼ出揃い、立候補者は4年前の都知事選に出馬した過去最多の22人をはるかに上回ることが予想される。それに加えて小池VS.蓮舫という女性同士の戦いが、都知事選の歴史に新たなページを刻むことになるはずだ。いずれにしろ次の都知事選は、日本の民主政治にとって大きな分岐点になることは間違いない。
(政治ジャーナリスト・安積明子)