小池栄子×仲野太賀、宮藤官九郎脚本に感じる“メス”の鋭さ 『新宿野戦病院』でタッグ「ドヤ顔で突っ走る」(2024年6月14日『マイナビニュース』)

ユーモアの中で社会を鋭く切る視点
キャプチャ
『新宿野戦病院』にW主演する小池栄子(左)と仲野太賀 撮影:蔦野裕
新宿・歌舞伎町を舞台に、“命”をテーマに展開される救急医療エンタテインメントドラマ『新宿野戦病院』(フジテレビ系 7月3日スタート、毎週水曜22:00~)にW主演する小池栄子と仲野太賀。今年1月クールでも『不適切にもほどがある!』(TBS)が大きな話題となった宮藤官九郎脚本作品に参加することへの喜びとともに、ユーモアの中で社会を鋭く切る視点を感じるという。
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短パンに白衣姿の小池栄子とチャラい成金姿の仲野太賀
今作で、アメリカ国籍の元軍医ヨウコ・ニシ・フリーマンを演じる小池と、美容皮膚科医の高峰享を演じる仲野に、現場の様子や互いの印象、新宿の思い出なども含め、話を聞いた――。
アメリカ国籍の軍医役「コントの延長みたいな感じ(笑)」
――今回の作品のオファーを受けての心境は、いかがだったでしょうか。
小池:まず面白い企画だなと思いましたし、そこに選んでいただいて光栄だなと思いました。役柄としてクリアしなきゃいけないハードルはたくさんあるんですけど、チャレンジしていくことはすごく好きなので。それに、仲野さんをはじめ、自分が至らなくても全部面白いことに変えてくれるような手練れの役者さんたちばかりに囲まれて、5か月弱になりますが、この愉快な仲間たちと楽しい時間が過ごせるんじゃないかなと思いました。
――小池さんは、アメリカ国籍の元軍医という特殊な役柄です。
小池:自由の中に芯の強さがあるという性格なので、思い切り遊べる部分はたくさんあるんじゃないかなと思ってるんです。語学指導のアリス先生に、ちょっとしたペンのアクションとか肩を叩くとかアメリカ人っぽい動きを教えてもらってるのですが、私が英語をしゃべっているときは、視聴者の皆さんに笑いながら楽しんで見ていただきたいなと。もちろん、ネイティブな発音まで頑張ってますけど、この短期間なので、本当のネイティブの人が聞いたら違うところはたくさんあると思うんです。でも、もうドヤ顔で突っ走ろうと思ってるので、ちょっとしたコントの延長みたいな感じですね(笑)。仲野さんもコント上手ですけど、そういうエンタメのパッケージとして楽しんで見ていただきたいです。
――やはり英語のセリフは難しいですか。
小池:難しいですね。レッスンを積み重ねても「これでいい」っていうラインがないんです。特に医療シーンは、元々知識がない上に、医療用語の英語が重なってるので、パニクるんですよ。でもリハーサルのときに、「私と一緒にいて、英語っぽい訛りがうつってくれたら、私の英語の下手さが目立たないかも」って言ったら、瞬時に皆さんが取り入れてくださって、場を和ませてくれました。だから緊張はありますけど、この支えてくれるメンバーとだったら、その緊張も楽しめそうだなと思います。
――『コタツがない家』や『俺の話は長い』などでご一緒されている日テレの櫨山裕子プロデューサーに小池さんの魅力を聞いたら「勇気がある人」とおっしゃっていたのですが、「もうドヤ顔で突っ走ろう」という言葉を聞いて、納得しました(笑)
小池:年齢とキャリアを考えたら、もう恥ずかしいなんて言ってられないですからね。私って、根はついついダラけたり、サボりがちな性格なんです。だから、こういうふうに課せられるとうれしいですし、そんな私に任せてくれるんだと思うとすごくありがたいので、怖いですけど、やっぱりこの世界にいる限り飛び込むというのは、ずっと続けていかなきゃと思うんです。
■チャラ男役は「かなり楽しんでやれています(笑)」
――仲野さんは今回のオファー、いかがでしたか?
仲野:小さい頃から宮藤官九郎さんのドラマを見て育ってきまして、これまでも宮藤さんの脚本作品に出させてもらうことはありましたが、連続ドラマで主演を務めることになるというのは、あの頃の自分に言ってやりたいです(笑)。小池さんや他の素敵な俳優さん、素敵なスタッフさんとともに、こういうチャレンジングな作品をやれることがすごくうれしいですし、この先がとても楽しみです。
 僕の役柄は、見ての通り港区とかで豪遊してそうな、チャラチャラした成金で(笑)、小池さん演じるヨウコが芯がある人に対して、僕が演じる享は何もなくていろんなことに流されていくキャラクターなのかなと。でも、ヨウコとの出会いをきっかけに、新宿・歌舞伎町といういろんな人たちが混じり合う中で感化されて、自分も成長していくのだと思います。
――チャラい男の役は、演じてみていかがですか?
仲野:かなり楽しんでやれています(笑)
日本の不条理や不寛容がすごく描かれている
――最近でも『不適切にもほどがある!』が大きな話題になった宮藤官九郎さんの脚本はいかがでしょうか。
小池:やっぱりすごく面白いですし、運ばれてくる患者さんのバックグラウンドやエピソードがニュースで見たことがあるようなもので、今の時代だからこその題材をうまく描かれているなと思いました。今回はW主演と言っても群像劇で、みんなに均等にたくさんエピソードがあるんです。患者さんと接する中でそれぞれの人物がどういうふうに感じて、どういうふうに変わっていくのか。
 また、医療とは何か、人の命を救うとは何か、自分の存在意義とは何かというものを、宮藤さんが丁寧に書いてくれています。先ほど「コントみたいに」と言いましたけど、別に笑わせようとするわけではなく、一生懸命な部分が滑稽であったり、ホロっときたりして、そこがとても絶妙に描かれているので、さすがだなと思いました。
仲野:今回も宮藤さんの“メス”が鋭利だなと思いました。
小池:scalpel!
仲野:メスのことですか?
小池:yes, scalpel!
仲野:こんな風に楽しくできそうな気がします! 僕は、宮藤さんはユーモアいっぱいに物語を描くけど、本質ではすごくヒューマンドラマであるし、根底はとっても社会派だなと思っているんです。今回もその宮藤さんが描く社会の切り口というのが、すごく鋭いなと思っていて。歌舞伎町の物語ではあるけど、日本の不条理や不寛容というものがすごく描かれている気がするんですよね。
 例えば、難民申請しても申請が下りなかった外国の方だったり、元ヤクザだったり、トー横キッズだったり、偏見や差別とかのカテゴライズで、社会が“ちゃんとカウントしてくれない”人たちが出てきて、命は平等のはずなのに本当の公平さって何だろう、命の重さに大小はあるのだろうかとか、そういうことが、このドラマでは根底に描かれているんです。なので、ここまでユーモアをはらんだ社会派ドラマはなかなかないなと思っています。もちろん、ドラマを見て笑ってほしいし楽しんでもらいたい部分もあるけど、宮藤さんじゃないと書けない、ある種リアリティのあるドラマになっていますね。
――宮藤さんは現場にもいらっしゃったそうですが、どんなお話をされましたか?
小池:終始、控えめな感じでいらっしゃってましたね。小さくなられて、「みんな医療シーン大変なのにすいません、頑張って書きます」って感じでした(笑)
仲野:いつもそうなんですよね。
小池:でも、リハーサルを楽しそうに見て笑ってくださってたので、ホッとしました。
仲野:宮藤さんが笑ってくれてるだけで、ちょっとホッとする感じはありますね。
小池:見守ってくださってる感じがあるんですよね。
■3回目での「はい入って!」に動揺
――撮影現場の様子は、いかがですか?
小池:空気ができるのが早かったです。事前にスタッフさんが代役を務めていろいろ動きを作ってくださって、それを2回見て、3回目で「はい入って!」って言われて、すごく動揺したのを覚えてます(笑)。そのスピード感だけでなく、「この人とこの人の関係性から、この人はどういう気持ちでここにいるのか」とか、「医療を志したときと今はどう違うのか」というところまで丁寧に演出されているんです。
――相当人が動く演技になる中で、細かい部分まできちんと作られていく現場なんですね。
小池:そうですね。
仲野:それを楽しんでもらえるよう頑張ります……といっても、僕はあんまりすることがないので(笑)。一番大変なのは小池さんで、それに比べたら僕は非常に楽な立場ですいません!
小池:いえいえいえ(笑)
――小池さんは『新ナニワ金融道』(2015年)以来の河毛俊作監督ですね。
小池:やっぱり監督の顔を見ると、緊張してビシッとしますよ。最後には「一緒にやって良かったな」と思ってもらいたいと思って、一生懸命やってます。「なんだ、つまんなかったな、こいつ」とは思われたくないので(笑)
――仲野さんは、河毛組の現場は初めてですか?
仲野:はい。やっぱりフジテレビの巨匠の監督さんという印象で、そんなすごいキャリアのある方と宮藤さんが組むというだけで楽しみでしたし、そこに携われるのもうれしいです。河毛さん、宮藤さん、小池さん、僕で世代が違うんですが、その中で同じものが作れるということが、素敵だなと思います。
――河毛監督独特の撮り方というのはあるのですか?
仲野:撮影が始まったばかりのころ、リハが終わったら河毛さんが、「今言うのもアレなんだけどさ、俺、基本1テイクしか撮らないから」っと宣言されて(笑)。撮影は速いですし、失敗できない緊張感がありますね。
小池:緊張しますよ。そこにみんなが思いを込めますからね。
「いろんな顔を見せてくれる」「できないことはない」
――お互いの印象は、いかがでしょうか。
小池:仲野さんは、いち視聴者として見させていただいて、硬派な役から情けない役、怪しい役、胡散臭い役……そんな感じで目まぐるしくいろんな顔を見せてくださる方だなと思います。その中で、こんなに肩に力の入っていない役者さんってすごいなと思ったんです。「この役はこうだからこうするんだ」ってあんまりガチガチに決めないで、そのシーンの温度みたいのを大切に、自分の役の範囲内で遊んでらっしゃる方なのかなって、リハを一緒にやらせてもらって瞬時に思いました。
仲野:小池さんは、もう僕が子どもの頃から活躍されていて…
小池:私そんな前からやってないって(笑)。まだ43だっつーの!
仲野:すいません、大ベテランみたいな言い方して(笑)
小池:いえいえ、うれしいですよ。
仲野:とにかくいろんなフィールドで活躍されていて、「できないことはないんじゃないか」と思うくらい、本当にスマートですよね。お芝居をしてもそうですし、バラエティもそうですし、本当に頭いい方なんだろうなって思って。それでいて、どんな局面でも、どんな立場や役柄でも、誠実さが伝わってくる。仕事に対するプロフェッショナルさを日頃から感じていて、いつかご一緒できたらいいなと思っていたので、今回はたくさん学ばせていただこうと思っています。
小池:頑張るけど、気づいたら「キツいよ太賀くーん。ヤバいどうしよー」って言ってると思うよ(笑)
仲野:もういくらでも弱音吐いてください(笑)
――小池さんはバラエティの経験がお芝居に生きることもありますか?
小池:コント番組をやらせていただいたときは、芸人さんたちに「こういう間でやったほうがいい」とか、いろいろ教えていただきましたけど、普段のバラエティは全然違った脳みそを使ってる感じがするんですよね。でも、こういう取材のときには生きているかもしれないです。お話しするのも好きですし、バラエティを続けさせてもらってるので、常にフル回転でいるという感じですね。
仲野:ドラマの撮影はもちろんですが、番宣でバラエティに一緒に出たり取材を受けるのは楽しいですし、頼もしいなと思いつつ、僕も背中を追いかけられるように頑張りたいですね。
小池:どうせだったら楽しく番宣やって、見てる人が楽しんでくれて、1人でもドラマも見てみようと思ってくれたらうれしいですからね。
――小池さんがバラエティの分野でも活躍される一方で、仲野さんはアラスカを80km歩いて旅するロングトレイルのドキュメンタリーがYouTubeで配信されて話題になりました。非常にタフなロケだったと思いますが、お芝居に生きるものはありましたか?
仲野:30代に入って守りに入るのではなく、いろんな物事においてとにかく挑戦を続けていきたいなと思っていた中で、ロングトレイルのお話を頂いて。興味があったし、アラスカにも行ってみたかったので、それが経験できて、仕事でも臆することなく常に挑戦するという気持ちがまた強くなりましたね。
――『ハイパーハードボイルドグルメリポート』の上出遼平さんが参加されていますが、どのような経緯でスタートしたのですか?
仲野:今回のドラマでもご一緒しているスタイリスト伊賀大介さんの紹介でお会いする機会があって、3人で食事をしたんです。その日に上出さんから「一緒にアラスカ行きませんか?」って企画書渡されて、すぐ「行きたいです!」とお返事したのがきっかけです。
――そこで即答できるのが、さすがです。
■コワモテの人、一家に1人必要説
――今作は新宿・歌舞伎町が舞台ということですが、この地に思い出などはありますか?
小池:私は高校生になってからアルタのあたりに遊びに行ったりしましたけど、今回、歌舞伎町で深夜ロケをやらせていただいて、ずいぶん若い子が多いなと感じました。でもそういう子たちを見て、心から楽しんで朝まで時間をつぶしているようには見えなかったんですよね。年齢的にも母心で心配になりました。
仲野:僕は新宿が地元から近いので、小さい頃からいろんな思い出がありますね。歌舞伎町だと、昔、新宿スカラ座という大きい映画館があって、そこで『ハリー・ポッター』を見るために、母と並んだ記憶があります。その帰り道に、すごくコワモテのおじさんとすれ違って、「この街怖い」と思ったんですが、新宿から地元の駅に着いたときに迎えに来てくれていた父(中野英雄)の見た目が一番怖かったことを思い出しました(笑)
小池:灯台下暗し(笑)
仲野:やっぱりコワモテ俳優だなって思いましたね(笑)
小池:でも、お父さんが隣にいてくれたら変な人が絡んでこないからいいじゃん。私も旦那さん(元プロレスラー・坂田亘)と歩いてると絡まれないから、やっぱコワモテの人って家族に1人必要なんだよ(笑)
仲野:確かに(笑)
――では最後に、視聴者の皆さんにメッセージをお願いします。
小池:宮藤さんの脚本ということでとても期待されていると思いますので、その期待を裏切らないように一生懸命頑張ります、のみですね。ホットなものをお届けしたいなと思っております。
仲野:小池さんと同じ思いです! 楽しんでもらえるように一生懸命頑張りたいと思うので、気楽に見てもらえればと思います。