◆「外務省は手を付けていない」認める
東京・明治神宮外苑地区(資料写真)
「神宮外苑部分については東京都が作成した」。今月12日、衆院外務委員会で上川陽子外相はこう述べた。重ねて「(都が作成した)文書について外務省は手は付けていないのか」と問われ、「そのような状況です」と認めた。
報告書は「大規模な再開発の環境への影響を検討するプロセスで、住民協議が不十分と報告があり懸念している。事例の一つが神宮外苑だ」と指摘。政府側は事業者が法令で定められた住民説明会を開いていることなどを踏まえ「事業者から意見を聴かずに報告をまとめるのは手続き上、誤りだ」と反論した。
外苑再開発を巡っては、NGO「国際記念物遺跡会議」(イコモス)が昨年9月、中止を勧告。報告書はこれを根拠の一つとしたが、反論文は「事業者はイコモスの指摘に丁寧に反証し、事実からかけ離れていると指摘しており、こうした意見を踏まえないのは大きな問題」としていた。
◆「一方的に批判するのはおかしくないか」
外務省や都によると、国連から報告書の内容を通知された同省が3月上旬、都に意見照会し、都は同月下旬に回答した。
反論文の作成に携わった都環境局の担当者は取材に「政府反論文を見たが、ほぼ都が書いたもの。一部の意見だけを聴いて、一方的に外苑の再開発を批判するのはおかしくないかということ。手続きに誤りがあるのだからいったん削除するべきだ」と述べた。事業者の代弁者のように読めると問うと、「そういうわけではない。事業者に報告書の内容を漏らしたわけでもない」とした。
◆「反論は事業者の主張そのもの」
外苑再開発では、都は再開発を認可したにもかかわらず、「明治神宮の私有地を巡る開発の話」と民間開発であることを強調。一定の距離感を保ってきた。
報告書の作成にあたりヒアリングを受けた地元住民グループの加藤なぎさ氏は「説明会と言っても、対象者は近隣に制限され、決まったことが通告されるだけ。きちんと説明してくれないから国連に助けを求めた。都は事業者ではなく住民の意見を聴いてほしい」と述べる。同様にヒアリングを受けた建築士の大橋智子氏も「反論文の内容は事業者の主張そのもの。二人三脚で開発を進めたい都の本音が見えるようだ」と批判した。
◆PFAS問題も「不安あおる」と削除要求
今回の報告書は、発がん性が指摘される有機フッ素化合物(PFAS)でも「東京西部の住民が有害なPFASにさらされていることを示唆する学術研究がある」として、市民団体と京大の准教授が行った住民の血液中濃度の検査結果を示し、対策を要請している。これに対し、政府は「都は先進的な対策を講じているのに地域住民の不安を不必要にあおる」などと反論し、削除を求めている。
国連HPに掲載された神宮外苑再開発に関する日本政府の見解
外務省との窓口になっている都外務部の担当者は11日、取材に「都環境局と文章を作成し、外務省に返した」と回答。詳細を確認するために担当部署を聞いたが、12日夕までに返答はなかった。外務省は「どこが文章を書いたか確認中」としている。
PFAS問題に詳しいジャーナリストの諸永裕司氏は「都は多摩地区の汚染原因の究明に後ろ向きで、汚染源とみられる横田基地への立ち入り調査も米軍に求めていない。反論文を都が書いたとすれば、血液検査結果も無視し住民の体内汚染をなきものにしようとしていることになり、看過できない」と述べた。
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