1人暮らしの人の増加や家族のつながりの希薄化を背景に、亡くなったあと、遺体を引き取って火葬する親族がいない人が増えています。
「引き取り手がない遺体」は自治体が火葬などを行いますが、全国109の自治体を対象にNHKが調査したところ、火葬後に親族が現れ苦情を受けるなどのトラブルが過去5年あまりで少なくとも14件起きていたことがわかりました。
アンケート調査から見えてきた現状と、取材した各地の実情を詳しくお伝えします。
![](https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240610/K10014475961_2406101827_0610182820_02_03.jpg)
![](https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240610/K10014475961_2406101742_0610181102_02_03.jpg)
調査では、主に4つの項目について尋ねました。
順に詳しくみていきます。
(冒頭の目次から読みたい項目に直接飛べます)
1.「引き取り手のない死亡人」火葬人数
などとなっています(速報値を含む)。
また、比較可能な10年間分の記録が残っている62自治体でみると、
![](https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240610/K10014475961_2406101713_0610172654_02_03.jpg)
▼2014年度 4422人
▼2015年度 4695人
▼2016年度 5034人
▼2017年度 5380人
▼2018年度 5945人
▼2019年度 6523人
▼2020年度 7180人
▼2021年度 7447人
▼2022年度 8479人
▼2023年度 9365人
となっていて、この10年で倍以上に増加していました。
これに伴い、現場の“事務負担”が増えている実態について、多くの回答が寄せられました。
2.公費負担の推移
3.死後事務めぐる“トラブル”
死後事務をめぐり火葬後、親族などの対応に苦慮したケースも調査しました。
具体的には「引き取り手がない」として火葬したあとに親族が現れたり、親族などに遺骨を返還できず、苦情を受けたり、対応に苦慮したケースの有無と、その件数を聞きました。
火葬をめぐっては、統一的なルールがなく、時間や予算に限りがある中、対応に悩む声が寄せられました。
4.“統一ルール”の必要性
また関連する法の整備を求める声も複数ありました。
「引き取り手の無い遺体に行政が包括的に対応できるような法律の整備を行う必要性がある。対応する法律と所管する行政体系がコンパクトになることで、より迅速かつ適切な対応が実施できるようになると考えます」(名古屋市)
「既存の法制度は家族等による葬祭を前提にし、それができない場合は行政による火葬を行う規定となっていますが、社会情勢の変化に対応した仕組みの検討がなされることを期待する」(神戸市)
終活など“生前サポート”制度拡充求める声も
このほか、生きている間にできる死後の手続きについてのルール整備や支援制度の拡充を求める声も複数ありました。
ここまで見てきたアンケートの結果。
現場では何が起きているのか、また背景にどのような変化があるのでしょうか。
各地で何が?「身寄りなし」と火葬し謝罪のケースも
アンケートでも明らかになったように、実際には、親族がいるのに「身寄りがない」として、自治体によって火葬や納骨され、トラブルになるケースがいま各地で発覚しています。
![](https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240610/K10014475961_2406101738_0610175135_02_05.jpg)
ところが、その後、市内に弟夫婦が住んでいたことがわかりました。
市は、ほかの自治体にある戸籍までたどれば親族がいることを確認できたものの調査が不十分だったとして、ことし3月、弟夫婦に経緯を説明した上で謝罪しました。
![](https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240610/K10014475961_2406101739_0610175135_02_06.jpg)
京都市では、当時は引き取り手のない遺体についてのマニュアルが無かったものの、去年夏に作成し、現在は法定相続人の範囲内で戸籍を調べたうえで、原則、引き取り手がないことを確認してから火葬することにしているということです。
一方、弟夫妻は京都市から請求された火葬にかかった費用などおよそ17万円を市に納め、改めて今西さんの納骨を終えたということです。
今回のことを受け、弟の今西恵一さんは「自分たちで何らかの形で安否確認ができていればという後悔もありますが、近くに親族がいながら何の連絡も無かったという点は兄の死によって少しでも改善できたらいいと思います。兄にはこれからの市の対応を草葉の陰から見守っていてほしい」と話していました。
【WEB特集】「誰が火葬のOK出したんや」兄はどこへ消えたのか?
![](https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240610/K10014475961_2406101736_0610175135_02_07.jpg)
「国による統一的なルールの整備が必要だ」
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また、その間は遺体を葬儀会社の冷蔵庫などで保管する必要があり、その分、費用がかさんだり、遺体の状態の悪化につながったりするため、いつまでも保管はできないという問題もあります。
何もルールがない中では、自治体は、親族をどこまで調べ、いつ火葬するかそのつど判断することになり、今回のアンケートではこうした対応について、自治体で独自に定めたルールやマニュアルが「ある」と答えたのは38自治体で34%あまりでした。
一方で、親族調査の範囲や火葬の時期などを尋ねた設問では、「病院や警察から遺体を引き取った後すぐに火葬する」と回答した自治体も少なくありませんでした。こうした状況を背景に、アンケートでは9割を超える自治体が「国による統一的なルールの整備が必要だ」と答えています。
”知らぬ間に火葬”を防ぐため
![](https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240610/K10014475961_2406101840_0610184126_02_10.jpg)
埼玉県朝霞市は、市が火葬を行った後、遺体を引き取ることができたという親族からの申し出があるのを防ぐため、県が示すマニュアルに沿って、担当の職員が戸籍を3親等まで調査し、遺体の引き取りや火葬できる親族がいないか1件1件確認しています。
市は調査を行っている間、契約する葬儀業者に遺体の安置を依頼していますが、長いケースだと期間が半年に及ぶこともあるということです。
朝霞市生活援護課の望月三枝子課長は「引き取り手のない遺体は今後も増えると見込まれるので統一的なルール作りや費用負担などについて、国に対応してもらいたい」と話していました。
国の見解は
親族がいるのに「身寄りがない」として火葬されてしまう事態が起きていることについて、厚生労働省は次のように回答しました。
また、ルールの策定については「自治体において、身寄りのない遺体の取り扱いに苦慮するケースがあることから実態調査を行うこととしており、調査結果も踏まえ、対応を検討したい」としています。
増える遺体に警察でも
一方、引き取り手がない遺体の取り扱いが増える中、警察も対応を迫られています。
埼玉県警察本部によりますと病院以外などで人が死亡した場合事件性がないかを確認する「検視」などの件数は去年1年間に1万1905件で、5年前(9847件)の1.2倍に増えているということです。
このうちおよそ4分の1にあたる3052件は、1人暮らしの高齢者で、引き取り手を探すのに時間がかかり一定の期間、警察署で安置するケースが増えているということです。
このため警察は今年度、遺体を安置する設備を拡充する費用として12年ぶりに400万円を計上するなど、対応を迫られています。
![](https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240610/K10014475961_2406101839_0610184126_02_11.jpg)
埼玉県警察本部捜査一課検視調査室の竹崎慎吾室長は「遺体はこれからも増加していくと思うが、事件の見落としを防ぎ死者の尊厳を守るためにも自治体と連携しながらできることをしっかりやっていきたい」と話しています。
「火葬待ち9日間」費用増も
亡くなる人の数が増加する中で、家族などを火葬するまでの期間がこれまでより長くなり、費用がかさむケースも出ています。
千葉県流山市に住む大塚信博さん(62)は、去年4月、88歳の母親を亡くしました。
流山市を含む3つの市は隣接する柏市に公営の火葬場を運営していて、大塚さんが葬儀会社に依頼したところこの火葬場が混んでいて最短で9日待ちになると伝えられたといいます。
葬儀までの間、母親の遺体を自宅に安置することになり、冷房を一日中つけた上で、葬儀会社の職員に冷却用のドライアイスを毎日交換しに来てもらう対応を依頼しました。
そのため費用がかさみ、すぐに火葬できる場合と比べると、8万円以上多くかかったということです。
大塚さんは「まさか1週間以上になるとは思ってもみませんでした。簡単にどうにかできる問題ではないと思いますが、火葬までが長すぎると家族も落ち着かないところがありますし、本人にもかわいそうな気がしてしまいます」と話していました。
担当した柏市の葬儀会社によりますと、対応する遺体の数が増える中で、「火葬待ち」をするケースが増える傾向にあるということでことしの1月には、最も長くて11日間待つケースもあったということです。
専門家「国で議論しモデルを示して」
葬送の成り立ちに詳しい国立歴史民俗博物館の山田慎也教授は次のように指摘しています。
![](https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240610/K10014475961_2406101746_0610175135_02_08.jpg)
国立歴史民俗博物館 山田慎也教授
その上で、求められる対策については、「自治体によっては、生前から終活情報や緊急連絡先などを事前に登録する取り組みを進めるところがありこうした情報を社会的に共有化する仕組みや、地域や福祉の枠組みの中に寺院や葬儀業者なども加えるなどしてスムーズに生前から死後のプロセスに移行できるような社会を作っていく必要がある」と話していました。