都知事選を前に「蓮舫叩き」が盛り上がる事情、小池氏は出馬表明を遅らせ「公務に専念」と沈黙(2024年6月8日『東洋経済オンライン』)

キャプチャ
記者団の取材に応じる蓮舫氏(写真:時事)
 4年ぶりの首都決戦となる東京都知事選(6月20告示―7月7日投開票)の告示まで残り2週間足らず。すでに中央政界や各メディアは、3選目指す小池百合子知事(71)と、蓮舫・立憲民主参院議員(56)による“七夕決戦”を大前提に、情勢分析と選挙結果を踏まえた対応づくりに腐心している。
 今回の都知事選への出馬予定者は過去最多となるのが確実で、知名度もある候補も複数含まれるが、結果的に、どちらも圧倒的な知名度を誇り女性総理候補とも目されてきた小池、蓮舫両氏の事実上の一騎打ちになる、との見方が支配的だ。
 しかも、過去に例のない200万票台での競り合いとみられていることに加え、自民、公明と立憲、共産の「保革全面対決」の構図となる。このため、結果次第では、巨額裏金事件で揺らぐ自民1強態勢の崩壊にもつながりかねず、岸田文雄首相はじめ与野党最高幹部が、固唾をのんで戦況を見守ることになる。
■「二重国籍」蒸し返し、街頭演説に公選法違反指摘
 そうした中、蓮舫氏の出馬宣言を受けて、有力週刊誌やネット上での“蓮舫叩き”が際立っている。小池氏の抱える「学歴詐称疑惑」に対比させる形で、決着がついたはずの蓮舫氏の「二重国籍問題」を蒸し返す一方、出馬宣言後の街頭演説でのやや配慮に欠ける対応や、公選法に触れかねない演説内容への批判などが相次ぐ。
 その一方で、今回の蓮舫氏の「先制攻撃」に対し、小池氏はあえて出馬表明をぎりぎりまで遅らせる構え。これには、「自らの出馬表明までに、メディアなどの蓮舫批判が盛り上がることを見越しての対応」(選挙アナリスト)との指摘もあり、「メディアの“忖度”で選挙戦を有利に運ぶ強かな作戦」(同)ともされるだけに、政界全体が今後の展開に注目する。
 今回、突然の出馬宣言で勝負を仕掛けたのが蓮舫氏。5月27日午後、党本部で記者会見し、冒頭で都知事選出馬を宣言したうえで「『反自民・非小池』を掲げて、広範な都民の支援を得る」との理由から、無所属で戦う考えを示した。蓮舫氏を担ぎ出した立憲民主と共産両党は、「事実上の立憲・共産統一候補」として全面支援する構えだが、蓮舫氏としては「無党派層も含め、幅広い支持を得られなければ勝機はない」との判断からとみられる。
 対する小池氏は3選出馬にあたり、表向きは無所属だが、自らが率いる地域政党都民ファーストを推薦母体とし、現在の都議会運営で協力関係にある公明党に加え、自民党の協力も受ける構え。さらに、反共産の連合の間接的支援も働きかけるとみられている。
■石丸、田母神、清水氏ら出馬も、維新や日本保守党は擁立見送りへ
 その一方で、今回都知事選にはすでに、広島県安芸高田市市長の石丸伸二氏(41)、元航空幕僚長田母神俊雄氏(75)、有名タレントの清水国明氏(73)ら知名度のある候補を含め30人以上が出馬表明しており、候補者数が過去最多となるのは確実だ。
 ただ、当初は候補者を擁立して参戦の構えだった、日本維新の会や新興勢力で先の東京15区補欠選挙でも健闘した日本保守党は、いずれも「初の女性総理候補」に名前が挙がってきた小池、蓮舫両氏の“2強対決”となることを見越し、「出ても影が薄く党勢拡大につながらないとの判断から、今回は候補擁立を見送る構え」(選挙アナリスト)だとされる。
 そこで注目されるのが「小池VS蓮舫」の論戦。蓮舫氏は出馬会見の中で、「小池氏が公約に掲げた『七つのゼロ』は何も達成できていない」と指摘したうえで、ここにきての小池氏の自民接近について「自民党政治の延命に手を貸す結果となる」と厳しく批判した。
 蓮舫氏は青山学院大在学中にグラビアアイドルとして芸能界にデビュー。その後、民放テレビ情報番組のキャスターを務め、2004年参院選東京選挙区に旧民主党から出馬して初当選し、現在4期目。2009年に誕生した民主党政権では、行政刷新担当相などを務め、野党転落後は、民進党代表などを務めるなど、常に日の当たる道を歩んできた。
 対する小池氏も、蓮舫氏と同様に民放情報番組のニュースキャスターなどを経て、1992年参院選比例区に当時の日本新党から出馬、初当選して政界にデビュー。翌1993年の衆院選には同党から旧兵庫2区にくら替え出馬して当選した。
その後小池氏は、旧新進党、旧自由党、旧保守党を渡り歩き、2002年末に自民党入り。女性初の防衛相などを歴任した後、2008年の自民党総裁選女性として初めて出馬し、その後これも女性初の党総務会長に起用されたことで、「女性初の首相候補」との呼び名が定着した。しかし、2016年6月に当時の舛添要一東京都知事が辞職すると、自民に反旗を翻す形で出馬して圧勝、2020年の再選を経て、今回3選に挑むことになる。
■「似た者同士」の対決、“空中戦”が勝敗のカギに
 こうしてみると小池、蓮舫両氏は「国民的人気を誇る一方で、さまざまな批判にもさらされてきた、まさに似た者同士」(政治ジャーナリスト)。しかも、1100万人の有権者をかかえる巨大都市での選挙戦は「両氏が得意とする“空中戦”で勝敗が決する」(同)ことは間違いない。だからこそ、「多くのメディアがことさら両氏の抱える『負の要因』をあげつらって、面白おかしく騒ぎ立てる事態」(選挙アナリスト)となっているのだ。
 その中で、今週発売の有力週刊誌も一斉に「小池VS蓮舫」関連の特集記事を大々的に掲載。それぞれの「大見出し」をみると、まず週刊文春が「立憲議員が告発『責任転嫁名人』『協調性ゼロ』―『蓮舫の本性』」と蓮舫氏のさまざまな醜聞を列挙している。
 一方、週刊新潮は「『たぬきときつねの化かし合いー『小池百合子』VS『蓮舫』・都知事選“5つの争点”』と題し、小池氏の学歴詐称疑惑と、蓮舫氏の「二重国籍問題」を「脛に傷はどちらが深い」と揶揄している。さらに、週刊ポストも「蓮舫“息子が自民党入り”騒動に決着!?」と息子と母親の直撃取材を掲載。その一方で、ネット上では蓮舫氏が2日に有楽町で行った街頭演説会での公選法違反疑惑がトレンド上位となった。
 この街頭演説会は、蓮舫氏が出馬表明後初めて東京・有楽町で行ったもの。報道陣や聴衆が雨に濡れて聴く中、蓮舫氏が屋根の下で演説したことが“女王様演説会”などと批判され、馬場伸幸・維新代表も「X」(旧ツイッター)に「自分達は濡れないところで演説をやる、というところがこの方々の普段の政治姿勢に現れていると感じるのは小生だけでしょうか?」と書き込んだ。
■“女王様演説会”に公選法違反疑惑噴出
 しかも、この演説会で蓮舫氏が「七夕に予定されている都知事選に蓮舫は挑戦します。皆さんのご支援、どうかよろしくお願いします」とあいさつ、応援に駆け付けた枝野幸男・立憲前代表も「みんなが安心して住める東京、日本をつくっていきましょう。そのために蓮舫さんを勝たせましょう」とエールを送ったことも問題視された。
その後小池氏は、旧新進党、旧自由党、旧保守党を渡り歩き、2002年末に自民党入り。女性初の防衛相などを歴任した後、2008年の自民党総裁選女性として初めて出馬し、その後これも女性初の党総務会長に起用されたことで、「女性初の首相候補」との呼び名が定着した。しかし、2016年6月に当時の舛添要一東京都知事が辞職すると、自民に反旗を翻す形で出馬して圧勝、2020年の再選を経て、今回3選に挑むことになる。
 演説会がメディアのニュースなどで報じられると、ネットを中心に「投票の呼びかけができるのは選挙中だけ。事前運動の公選法違反!」と問題視する声が噴出。立花孝志・NHK党党首も5日に自身のユーチューブで「明らかな公選法違反。蓮舫さんはそれなりの報いを受けると思う」と断罪した。
 そうした状況も踏まえてか、小池氏は「公務に専念」とひたすら沈黙を守る。注目の出馬表明も関係者の間では「都議会最終日の12日か、14日の定例会見というギリギリのタイミングになる」とみる向きが多い。しかも、「出馬表明後も公務優先で、街頭演説などを自粛することで、蓮舫氏との違いを際立たせる戦略」(側近)だとされる。
 そもそも、これまで都知事選で現職が負けた例はなく、「アンチも多いとされる蓮舫氏は、無党派層の取り込みにも苦労するはず」(選挙アナリスト)との見方が多い。このため「選挙戦が『静の小池と動の蓮舫』という構図になれば、一連の“蓮舫叩き”が勝敗を左右しかねない状況」(同)という歪んだ戦いになりかねないのが実態だ。
 
泉 宏 :政治ジャーナリスト