災害時の障害者施策 まずは「情報の保障」を(2024年5月29日『佐賀新聞』-「論説」)

 沖縄、奄美地方が梅雨入りし、佐賀県を含む九州北部も雨のシーズンに入る。県内でも大雨による水害や土砂災害が頻発しており、住民に安全を確保するための行動が呼びかけられる中で、必要な情報を得ることが困難な視覚や聴覚などに障害のある人が不安を抱えるケースは少なくない。災害時に正確な情報が健常者と同じタイミングで届くことは、命を守る“一丁目一番地”。当事者の視点に立った情報の保障を最優先課題として取り組みたい。

 大雨や台風が多い6月から秋にかけては県内でも大規模な災害が起きており、昨年7月には梅雨前線の影響による激しい雨で土石流が発生、唐津市浜玉町の3人が亡くなった。このような災害時は刻々と状況が変わる上、自治体などが出す情報の量は膨大になることも多いため、視覚や聴覚などに障害がある人は情報収集が難しい場合がある。

 視覚に障害がある人の情報提供施設である佐賀市の県立視覚障害者情報・交流センター「あいさが」によると、例えば天気図などの図表だけで示されると分かりにくいほか、避難所での情報が掲示物になると分からないといった不便がある。自治体側もさまざまな方法で情報を発信しているが、そもそもサービス自体を当事者たちが知らないケースも少なくないという。

 災害時などに障害のある人が必要な情報を得ることが難しい状況を是正するため、情報の利用しやすさや意思疎通に焦点を当てた法整備が進んだ。障害者団体や専門家らにヒアリングを重ね、2022年5月に「障害者情報アクセシビリティ・コミュニケーション施策推進法」が施行された。

 アクセシビリティとは「利用のしやすさ」のこと。障害のある人に対しては、それぞれの特性を理解した上で「合理的配慮」が求められる。例えば、視覚障害がある人には文書や絵を音声に置き換えたり、聴覚障害がある人には字幕や手話通訳の映像を付けたりして発信するなどが挙げられるだろう。それぞれICT機器・サービスを使って、文字の読み上げや音を文字に変換することができるケースもあり、法律では障害のある人が情報の受け取り方を選ぶことができるようにするとしている。

 施策の推進は国や自治体の責務で、佐賀県が23年度に中間見直しで改訂した第5次県障害者プランでも、この法に基づいて情報保障の強化が盛り込まれた。また、国は災害時に情報収集や避難行動、避難所生活が必要になった場合に有効なICT機器・サービスの利活用推進ガイドをまとめ、今年5月に公表している。

 ガイドでは特に災害時に情報取得やコミュニケーションに困難がある視覚、聴覚、音声、言語の障害についてそれぞれの特性を明記。有効なICT機器・サービスの具体例のほか避難所の電源確保、Wi-Fi環境の整備も求めており、今後は各自治体などに周知していきたいとしている。

 県内では大雨による浸水や土砂崩れの被害が多く、これからの雨期は特に警戒が必要になる。備えとして、河川改修や避難所の整備といったハード事業と並行し、障害の有無に関わらず住民一人一人に正確な情報を届けることは、あらゆる防災対策の根幹だろう。

 大切なのは情報を受け取る側の目線。命を守るためのアナウンスや張り紙なども、伝わらなければ意味がない。“情報の壁”を取り除く不断の取り組みが求められている。(林大介