静岡知事選で自民敗北 真摯に民意 受け止めよ(2024年5月29日『茨城新聞・山陰中央新報』-「論説」)

静岡県知事選で落選が決まり、敗戦の弁を述べる大村慎一氏(左端)=26日夜、静岡市
 与野党対決の構図になった静岡県知事選は、立憲民主、国民民主両党が推薦した元浜松市長が、自民党推薦の元副知事らを破り、初当選した。

 先の衆院補欠選挙後、初の大型選挙だったが、自民は不戦敗を含め全敗した補選に続いて敗北した。

 自民派閥の裏金事件を受け、今国会の最大の焦点になっている政治資金規正法改正案が審議されているさなかの知事選である。有権者が投票先を決めるに当たって、規正法改正を巡る与野党の取り組みも考慮に入れたはずだ。

 これまでの国会審議で、自民が提案した規正法改正案は政治資金の透明化につながらないと野党は批判してきた。自民総裁の岸田文雄首相は裏金事件の再発防止の観点から「高い実効性を有する」と強調してきたが、有権者から積極的評価を得られなかったと言える。

 国政選挙でないとして自民が結果から目をそらすようなら、国民の信頼回復は遠のくばかりだ。補選と同様の民意が示されたと真摯(しんし)に受け止め、規正法改正案に、より厳格化を求める野党の主張を取り入れるべきだ。

 静岡県知事選は、職業差別と捉えられかねない発言をした川勝平太前知事の辞職に伴い行われ、事実上、元浜松市長の鈴木康友氏と元副知事の大村慎一氏との一騎打ちになった。野党陣営は党首クラスが相次いで応援に入る一方、自民は党幹部の投入を控え、地方議員を中心にした選挙運動を展開した。

 自民が党派色を抑えたのは、裏金事件への反発を回避するためとみられる。だが、そうした姿勢には、有権者の厳しい声と向き合おうとしない不誠実さを感じざるを得ない。

 選挙戦では川勝氏が静岡工区の着工を認めなかったリニア中央新幹線への対応が問われたものの、鈴木、大村両氏とも「推進派」に位置付けられ、主張に大差は見られなかった。

 また、静岡県の地理的特徴から、県西部・浜松市を地盤とする鈴木氏と、中部・静岡市出身の大村氏の戦いは、地域間対立ともいわれた。実際の得票でもその傾向が表れたが、自民が本気で政治改革に取り組んでいると認められれば、地域間対立を乗り越えて集票できたのではないか。

 自民は政治資金パーティー券購入者の公開基準を現行の「20万円超」から「10万円超」への引き下げを提案した。説得力がないなどと批判されると、基準の「3年後の見直し」を改正案の付則に盛り込むことで公明党の同意を得ようとしている。

 自民の場合、年間10億円前後が党から幹事長らに支出されながら使途報告の義務がない政策活動費も同様だ。明細を伏せて小出しの情報開示で存続を図ろうとしている。

 一方で、岸田首相の主導で6月に始まる定額減税については「減税効果を実感できる」として、減税額の給与明細への記載を義務付けた。

 政策活動費の使途には明細を要求しないのに、減税には明細を示して政権の実績をアピールする。選挙戦ではそうした手法が、有権者の不信感をかえって招いたと自省すべきだろう。

 2議席を争った東京都目黒区の都議補選でも、自民は議席を獲得できず、立民元職らの後塵(こうじん)を拝した。自民が弥縫(びほう)策のような規正法改正案で済まそうとするなら、岸田政権からの民意の離反に歯止めはかかるまい。