卵子凍結保存 出産と仕事の両立支援が先だ(2024年5月27日『読売新聞』-「社説」)

 将来の出産に備え、卵子の凍結保存を希望する女性が増えている。仕事との両立に不安を感じ、出産を先送りする傾向もあるが、本来は出産しやすい環境づくりこそが重要だ。
 卵子の凍結保存は従来、抗がん剤放射線治療を受けるがん患者らに、子どもを授かる希望を残すために行われてきた。しかし近年は、健康に問題のない女性でも、あらかじめ採卵して希望する時に使う目的で活用されている。
 年を重ねると卵子の減少や質の低下が進み、妊娠しにくくなる。そのため、パートナーがいない場合や、当面は仕事を優先する必要があるなどの事情で卵子の凍結保存が注目されるようになった。
 東京都が昨年度、都内在住の18~39歳の女性を対象に、卵子を凍結保存するための費用を最大30万円まで助成する制度を設けた。
 初年度は想定の7倍を超える申請があり、今年度は助成規模を大幅に拡大している。山梨県も同様の助成制度を始めるという。
 女性の人生設計の選択肢を広げたいという考えなのだろう。
 ただ、採卵には、服用する薬の副作用など一定のリスクがある。また、妊娠をあまり先延ばしにして高齢での出産になると、体の負担は若い時より大きくなる。
 卵子を凍結しておいたとしても、妊娠・出産に至る確率は高くはなく、必ず子どもを授かれるとは限らない。行政や医療関係者は、女性が正しい知識を持てるよう、丁寧に説明してもらいたい。
 千葉県浦安市少子化対策の研究のため、2015年度から3年間、順天堂大浦安病院と共同で、健康な女性の卵子を凍結する事業を実施した。34人が参加したが、実際に凍結卵子を使って生まれた赤ちゃんは1人だけだった。
 東京都の助成制度についても、公費を投じる以上、どのような効果があったのか、今後、十分に検証することが不可欠だ。
 福利厚生の一環として、卵子を凍結する費用を企業が補助しているケースもある。
 従業員への手厚い支援は大切だ。しかし、もっと大事なのは、出産でキャリアをあきらめたり、仕事で不利な扱いを受けたりしないようにすることではないか。
 18~25歳の若者の約半数が「将来、子どもがほしくない」と考えているという調査結果もある。お金の問題や育てる自信のなさなどが理由だという。
 国は、妊娠・出産の可能性が高い時期に、子どもがほしいと思えるような施策を進めてほしい。