将来の出産に備え、卵子の凍結保存を希望する女性が増えている。仕事との両立に不安を感じ、出産を先送りする傾向もあるが、本来は出産しやすい環境づくりこそが重要だ。
卵子の凍結保存は従来、抗がん剤や放射線治療を受けるがん患者らに、子どもを授かる希望を残すために行われてきた。しかし近年は、健康に問題のない女性でも、あらかじめ採卵して希望する時に使う目的で活用されている。
東京都が昨年度、都内在住の18~39歳の女性を対象に、卵子を凍結保存するための費用を最大30万円まで助成する制度を設けた。
初年度は想定の7倍を超える申請があり、今年度は助成規模を大幅に拡大している。山梨県も同様の助成制度を始めるという。
女性の人生設計の選択肢を広げたいという考えなのだろう。
ただ、採卵には、服用する薬の副作用など一定のリスクがある。また、妊娠をあまり先延ばしにして高齢での出産になると、体の負担は若い時より大きくなる。
卵子を凍結しておいたとしても、妊娠・出産に至る確率は高くはなく、必ず子どもを授かれるとは限らない。行政や医療関係者は、女性が正しい知識を持てるよう、丁寧に説明してもらいたい。
千葉県浦安市は少子化対策の研究のため、2015年度から3年間、順天堂大浦安病院と共同で、健康な女性の卵子を凍結する事業を実施した。34人が参加したが、実際に凍結卵子を使って生まれた赤ちゃんは1人だけだった。
東京都の助成制度についても、公費を投じる以上、どのような効果があったのか、今後、十分に検証することが不可欠だ。
福利厚生の一環として、卵子を凍結する費用を企業が補助しているケースもある。
従業員への手厚い支援は大切だ。しかし、もっと大事なのは、出産でキャリアをあきらめたり、仕事で不利な扱いを受けたりしないようにすることではないか。
18~25歳の若者の約半数が「将来、子どもがほしくない」と考えているという調査結果もある。お金の問題や育てる自信のなさなどが理由だという。
国は、妊娠・出産の可能性が高い時期に、子どもがほしいと思えるような施策を進めてほしい。