川勝平太前知事の辞職に伴う静岡県知事選は26日投開票され、無所属の元浜松市長鈴木康友氏(66)=立民、国民推薦=が新人6人による争いを制し、初当選を果たした。無所属の元副知事大村慎一氏(60)=自民推薦=は競り合ったが敗れた。川勝氏の辞職表明から2カ月足らずの超短期決戦。与野党対決の構図で、野党系が支持した候補が勝利した。投票率は2021年の前回を0.46ポイント下回り、52.47%だった。
初当選を確実にし、贈られた花束を掲げる鈴木康友氏(右)
新知事の誕生は15年ぶりで、公選制以降で浜松市出身の知事は初めて。6人の立候補は県政史上最多で、川勝氏が認めなかったリニア中央新幹線静岡工区着工の是非が大きな争点だった。鈴木氏は環境問題を指摘した川勝氏の功績を評価した上で「水と環境を守り課題を現実的に解決していく」と主張。着工に向け議論は前進しそうだ。
選挙戦では、鈴木氏は4期16年の浜松市長としての経験をアピール。企業誘致による産業活性化などを掲げた。鈴木氏の応援演説には、立民の泉健太代表や野田佳彦元首相、国民の玉木雄一郎代表らが訪れ「静岡から国の政治を変える」と訴えた。
政治資金パーティー裏金事件で逆風の自民は、県外の国会議員を大村氏の応援演説に呼ばないなど”党色”を出さない戦術を展開。大村氏もリニア推進で、元総務省官僚として国とのパイプをアピールして追い上げたが及ばなかった。
共産公認の党県委員長森大介氏(55)は党支持層以外に浸透できず、他の3人は支持が広がらなかった。
◆【解説】浜松市長16年の「経験生かす」に反発も
静岡県西部を地盤とする鈴木氏が、県中部出身の大村氏との接戦を制した。円滑な県政運営ができるかは、選挙戦で生じた地域、政党間の溝を修復できるかにかかっている。県内外で分断と対立を招いた川勝氏の後任だからこそ、調整と融和が求められる。
川勝氏は自民推薦候補と激しく戦った2021年の前回知事選後に、「今回はノーサイドといかない」と宣言。自らの勢力を増やそうと国政選挙の応援に入り、相手の自民候補の地元をやゆする「コシヒカリ発言」につながった。その後、県議会は空転を続けた。
今回の知事選では鈴木、大村両氏の推薦、支援を巡り、県内の各勢力は割れた。先例があるだけに、二の舞いになってはいけない。
選挙戦では中部、東部の首長の多くが大村氏を支持した。浜松市長時代の成功事例を「全県展開する」と訴えた鈴木氏の序盤の主張は、一部で「地域事情は異なる」と反発を招いた。トップに求められるのは謙虚に耳を傾ける姿勢だ。
県政の課題はリニア問題にとどまらない。人口減少や経済活性化への対策は待ったなしだ。県民は本当の意味での「オール静岡」を望んでいる。(塚田真裕)