「“東北”電力福島第1原発」? 高校生の半数が誤解 調査で判明(2024年5月17日『毎日新聞』)

キャプチャ
東日本大震災原子力災害伝承館=福島県双葉町で2020年9月10日午後2時44分、和田大典撮影
 
 高校生の半数が「○○電力福島第1原発」を「東北電力」「福島電力」などと誤解している――。東日本大震災原子力災害伝承館(福島県双葉町)と東京大が、こんな調査結果をまとめた。震災と原発事故から13年が過ぎ、実体験がない15〜18歳を「災害記憶消滅世代」と位置付けて約1000人を対象に実施した初の大規模な調査だという。記憶の継承の問題が深刻化している現状が浮かんだ。
 調査を統括したのは、伝承館の上級研究員と東大大学院准教授を務める社会学者の開沼博さん。福島県いわき市出身で、「『フクシマ』論 原子力ムラはなぜ生まれたのか」「はじめての福島学」などの著書がある。
 調査は、2023年12月〜24年3月に伝承館と東大が共同でウェブフォームによるアンケートで実施。対象は、首都圏にある佼成学園▽成城▽成城学園筑波大付属駒場▽武蔵丘▽日比谷▽藤沢翔陵▽早稲田――の8校642人と、福島県内の磐城桜が丘▽須賀川桐陽▽福島東▽相馬総合▽安積――の5校271人の高校生計913人。
 「福島第1原発の経営母体」を8択で尋ねたところ、「東京電力」と正答したのは52・4%にとどまり、残りは「東北電力福島第1原発」「福島電力福島第1原発」といった別の回答を選んだ。首都圏と福島県内での認識に大きな差は見られなかったという。
 また、福島第1原発でつくられた電気の消費地について、7択で正答の「つくられた電気は、すべて首都圏などに送られていた」を選んだのは30・1%。「原発事故が発生したメカニズム」では、「原子炉が冷却できなくなり、燃料が溶け落ちた」と正答したのは37・9%だった。
 福島県内の除染で出た土などの廃棄物について、「中間貯蔵施設での保管開始から30年以内(45年3月まで)に福島県外で最終処分されると法律で定められている」と知っていたのは首都圏が31・4%、福島県内が28・5%で、やはり県内外に大きな差はなかった。
 24年4月から5月にかけて追加調査として、福島県医大保健科学部で1年生向け必修授業「福島を知る」の受講生145人に1回目の調査を行い、2週間後に抜き打ちで2回目の調査をして正答率の変化を確かめた。正答率は「福島第1原発の経営母体」が51・7%から96・6%に、「原発事故が発生したメカニズム」が29・3%から92・4%になるなどの改善が見られた。このため、リポートは「短時間でも知識獲得のための専門家による講義などを実施するだけでも状況は劇的に改善されることを踏まえ、今後の災害伝承が進められる必要がある」と指摘した。
 開沼さんは毎日新聞の取材に「(調査は今後)数年ごとに実施していくとともに、調査対象を世代や地域で広げていこうと思う。具体的には、大人世代でも知識不足は意外と深刻になってきているのではないかと仮説を立てており、そういう点を踏まえて動いていく」とコメントした。【岩間理紀】