相次ぐシステム障害に企業は危機感を(2024年5月15日『日本経済新聞』-「社説」)

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システム障害の影響により江崎グリコの一部製品の出荷停止が続いている
 
 国内の有力企業で情報システムの障害により事業に深刻な影響が及ぶ事態が相次いでいる。当該企業が再発防止策を徹底するのはもちろん、幅広い業種の企業がシステムの構築や運用の体制を点検する契機としたい。
 江崎グリコは生産や物流の情報を統合する基幹システムを切り替える際に問題を起こし、4月から洋生菓子などの出荷を停止している。8日にはこの影響により2024年12月期の連結業績予想を下方修正した。
 HOYAサイバー攻撃を受けて眼鏡レンズの受注システムなどが一時停止し、4月下旬まで3週間にわたり影響が続いた。JR東日本も10日、スマートフォン向けIC乗車券サービス「モバイルSuica(スイカ)」が使いにくくなった。
 一連の問題から浮かび上がるのは、業種を問わず情報システムの役割が大きくなっている実態だ。経営者はシステムが企業の競争力に直結する一方、障害が重大な結果を招くと認識し、経営における優先度を高める必要がある。
 現状は心もとない。日本企業がコスト削減のためにシステム部門を分社化したり、売却したりする動きを強めてきたことが一因だ。この結果、社内に知見が蓄積されず、外部企業に「丸投げ」する事例も増えた。
 すべての業務を内製化するのは現実的でないが、少なくとも企画や評価の機能は社内にとどめるべきだ。日本は米欧に比べて専任の最高情報責任者(CIO)を置く企業の割合が少ない。社内における計画的な人材育成に加え、外部からの起用も選択肢になる。
 専用システムの開発や、自社の業務内容に合わせた市販システムの過度な改変にも注意が要る。こうした作業は時間やコストがかさみ、情報セキュリティーの確保を含む保守も難しくなりがちだ。
 不要な業務を整理するなどして市販システムを上手に使い、資金や人材は競争力を高められる分野で活用すべきだ。生成AI(人工知能)など新技術をめぐる国際的な競争が激化し、こうした姿勢が一段と重要になっている。
 経済産業省は18年の報告書でシステムの老朽化や人材不足が深刻になる状況を「2025年の崖」と呼び、年間で最大12兆円の経済損失が発生すると試算している。この期限が迫るなか、企業による対策の強化は待ったなしだ。