政府の基金見直し 無駄の温床一掃すべきだ(2024年5月10日『毎日新聞』-「社説」)

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基金の点検結果が報告されたデジタル行財政改革会議で発言する岸田文雄首相=首相官邸で2024年4月22日、平田明浩撮影
 
 財政の無駄をなくすには、まだ踏み込み不足ではないか。
 政府は、複数年度にまたがる事業を推進するために設けた基金の見直し策をまとめた。多額の国費をつぎ込んだが、放置されているケースが目に付き、昨年秋に「総点検」を宣言していた。
 内閣支持率が低迷する中、改革姿勢をアピールする狙いがあるのだろう。だが152基金が実施する全200事業のうち、廃止するのは15事業にとどまった。
 10年以上も前に円高対策として始まった補助金交付など、既に役割を終えたものが大半だ。判断が遅すぎると言わざるを得ない。
 管理に当たる独立行政法人などが国に返す資金は5400億円強となったが、点検前にめどが立っていた分を除くと、2300億円余りに過ぎない。16兆円超の残高全体のごく一部だ。
 基金はコロナ禍で急増した。政府が対策の規模を大きく見せるために乱立させた。経済が正常化に向かっているにもかかわらず、本格的にメスを入れなかった。
 一例が、2兆円超で中小企業の業態転換を支援してきた基金の存続が決まったことである。有識者の意見を聞く政府の会議では「安易な支給が目立つ」と廃止を求める声が相次いでいた。
 半導体生産や脱炭素を進める基金もほぼそのまま残ることになった。兆円単位の巨額資金を官主導で効率的に活用できるのかとの疑問が出ている。毎年度審議される予算と異なり、国会などによる監視の目が届きにくいためだ。
 政府は今回、設置から原則10年以内に終了させる方針を示した。2006年に閣議決定していたが、形骸化し、3割以上が期限を設けていなかった。成果が出なくても温存されてきたのが実態だ。ルーズな対応にあきれるばかりだ。
 いったん設置されると、独立行政法人などに業務が委ねられ、所管する官庁や族議員が影響力を行使する道具と化していると言われてきた。野放図な運営を抜本的に改める必要がある。
 有識者ら第三者の意見を反映させ、国会のチェックも強化するなど、実効性ある監視体制を整えることが急務だ。不断の見直しで廃止や縮小をさらに進め、無駄の温床を一掃しなければならない。