厚生年金「月額15万円」なのに振込額が2万円ほど少ないです…意外と知られていない年金の仕組みとは?(2024年5月8日『LIMO』)

キャプチャ
写真:LIMO [リーモ]
 
2024年1月19日、厚生労働省は2024年度の年金額増額を発表しました。
賃金や物価の上昇を背景に年金額は前年度から2.7%の引き上げとなりましたが、物価上昇率を下回るため実質的には目減りとなっています。
 
キャプチャ2
 
キャプチャ3
厚生年金の平均月額の一覧表
 
物価上昇が続く中、年金収入だけで老後生活をやりくりできる高齢者はどれほどいるのでしょうか。
本記事では、老後対策を検討するために厚生労働省から公表された「令和4年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」よりシニア世代の年金事情を覗いていきます。
また、「月額15万円だと思っていたのに、実際に振り込まれた金額が2万円ほど少ない」という事例をもとに、公的年金の押さえておくべきポイントもご紹介しますので参考にしてください。
※編集部注:外部配信先ではハイパーリンクや図表などの画像を全部閲覧できない場合があります。その際はLIMO内でご確認ください。
日本の公的年金制度「厚生年金と国民年金」とは?
最初に、日本の公的年金制度について仕組みをおさらいしておきましょう。
日本の公的年金は、上記のように国民年金と厚生年金の2階建てになっています。
国民年金(1階部分)
 ・原則、日本国内に住む20歳以上60歳未満の全員に加入義務がある
 ・保険料は一律(年度ごとに見直し)
 ・納付した期間に応じて将来もらえる年金額が決まる
●厚生年金(2階部分)
 ・公務員やサラリーマンなどが国民年金に上乗せする形で加入する
 ・収入に応じた保険料を支払う(上限あり)
 ・加入期間や納付額に応じて将来もらえる年金額が決まる
現役時代の働き方によって加入する年金の種類が異なります。
また、現役時代の年金加入状況や保険料納付状況によって老後に受給する年金額が決定することも理解しておきましょう。
ではシニア世代は実際に年金をどれくらい受給しているのでしょうか。
次章で平均受給額とそれを上回る年金額を受給する人は何パーセントいるかを見ていきます。
【厚生年金】平均額を上回る「月額15万円以上」を受給する人は何パーセントいる?
厚生労働省年金局「令和4年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」より、2022年度末現在の厚生年金の平均月額を確認していきましょう。
 
 
なお、これから確認する厚生年金は全て国民年金(基礎年金)を含む金額となります。
● 厚生年金の平均年金月額
〈全体〉平均年金月額:14万3973円
 ・〈男性〉平均年金月額:16万3875円
 ・〈女性〉平均年金月額:10万4878円
国民年金部分を含む
厚生年金の平均月額は、男女全体で14万3973円です。男女で約6万円の差がみられます。
先述したとおり、厚生年金は現役時代の年金加入期間や年収が年金額に影響するため、結婚や出産、育児などを機に退職したり働き方を抑えたりする方が女性に多いことが、厚生年金の受給額からも読みとれます。
では、男女全体の平均月額を上回る「月額15万円以上」を受給する人はどれくらいいるのでしょうか。
●【厚生年金】受給額ごとの人数(1万円刻み)
 ・1万円未満:6万1358人
 ・1万円以上~2万円未満:1万5728人
 ・2万円以上~3万円未満:5万4921人
 ・3万円以上~4万円未満:9万5172人
 ・4万円以上~5万円未満:10万2402人
 ・5万円以上~6万円未満:15万2773人
 ・6万円以上~7万円未満:41万1749人
 ・7万円以上~8万円未満:68万7473人
 ・8万円以上~9万円未満:92万8511人
 ・9万円以上~10万円未満:112万3972人
 ・10万円以上~11万円未満:112万7493人
 ・11万円以上~12万円未満:103万4254人
 ・12万円以上~13万円未満:94万5662人
 ・13万円以上~14万円未満:92万5503人
 ・14万円以上~15万円未満:95万3156人
 ・15万円以上~16万円未満:99万4044人
 ・16万円以上~17万円未満:104万730人
 ・17万円以上~18万円未満:105万8410人
 ・18万円以上~19万円未満:101万554人
 ・19万円以上~20万円未満:90万9998人
 ・20万円以上~21万円未満:75万9086人
 ・21万円以上~22万円未満:56万9206人
 ・22万円以上~23万円未満:38万3582人
 ・23万円以上~24万円未満:25万3529人
 ・24万円以上~25万円未満:16万6281人
 ・25万円以上~26万円未満:10万2291人
 ・26万円以上~27万円未満:5万9766人
 ・27万円以上~28万円未満:3万3463人
 ・28万円以上~29万円未満:1万5793人
 ・29万円以上~30万円未満:7351人
 ・30万円以上~:1万2490人
国民年金部分を含む
厚生年金を「月15万円以上」受給している人は全体の46.1%でした。
半数以上の高齢者が月額15万円未満の年金収入で生活していることがわかります。
さて、初めての年金支給日に「月額15万円だと思っていたのに実際に振り込まれた金額が2万円ほど少ない…」と落胆する方もいるようです。
次章でその理由を解説していきます。
厚生年金「月額15万円」のはずが…振込額が2万円ほど少ない!その理由とは?
「月額15万円」だと思っていたのに、振込額が2万円ほど少ない…その理由として考えられるのは「天引き」です。
先ほど確認した厚生年金の受給額は、全て「額面」となります。
老後に受給する公的年金においても「税金」や「社会保険料」が天引きされるため、実際の受取額は少なくなるのです。
天引き額はお住まいの地域や控除されるものなどによって個人で異なります。
現時点で将来の天引きされる税金や社会保険料の金額を把握することはできませんが、知識として「老後に受給する年金からは税金や社会保険料が天引きされる」ことを理解しておくと、実際の振込額とのギャップにガッカリする事態は避けられるでしょう。
老後の年金「厚生年金」から天引きされる4つのお金
老後に受給できる公的年金から天引きされるお金は以下の4つです。
 ・介護保険
 ・所得税額および復興特別所得税
 ・個人住民税
年金年額が18万円以上の方は、年金から介護保険料が天引きされます。
介護保険料と同様に、国民健康保険料も年金から天引きされます。
75歳以上になると国民健康保険に変わり、後期高齢者医療保険料が年金から天引きされます。
所得税額および復興特別所得税
年金収入が一定額を超えると、社会保険料と各種控除額を差し引いた後の額に対して所得税が天引きされます。
●個人住民税
年金収入が一定額を超えると、個人住民税も天引きされます。
なお、住民税は前年の所得に対して課税されるため、年度途中で天引き額が変わる場合があります。
上記のとおり、老後の大切な収入源となる公的年金からも税金や社会保険料が天引きされます。
額面の10~15%程度が天引きされると想定しておくと良いでしょう。
厚生年金の月額が15万円の場合、1万5000円~2万2500円が天引きされ手取り額は13万5000円~12万7500円となります。
15万円振り込まれると思っていたら、13万円前後だった…となると、家計収支に大きく影響するかもしれません。
年金の仕組みを理解して老後に向けた生活設計を
本記事では公的年金制度について仕組みや、シニア世代の年金月額を確認してきました。
手厚いといわれる厚生年金でも、月額15万円(額面)を受給できる人は半数以下でした。
現役世代の人たちが老後を迎える頃には、年金給付水準はいまより低下している可能性もあります。
老後に向けて私的年金や貯蓄などで備えておく必要がありそうですね。
また老後に向けた生活設計を考える際には、本記事で確認した「天引き」も考慮しておきましょう。
参考資料
 ・厚生労働省年金局「令和4年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」
 ・日本年金機構「大切なお知らせ、「ねんきん定期便」をお届けしています」
 ・日本年金機構「ねんきんネット」
和田 直子