太陽光発電+蓄電池+EV 避難所に再エネ マイクログリッド 狭いエリアで電力融通(2024年4月20日『東京新聞』)

 
石川県野々市市の金沢工業大扇が丘キャンパスの体育館に設置された太陽光発電パネル=同大提供

石川県野々市市の金沢工業大扇が丘キャンパスの体育館に設置された太陽光発電パネル=同大提供

 自然災害などによる大規模停電に備え、避難所に太陽光発電や蓄電池、電気自動車(EV)を導入する動きが広がりつつある。電力会社からの電気が途絶えても、独自に電気を供給する取り組みで、狭い地域内で電気を賄うことから「マイクログリッド」と呼ばれる。脱炭素と防災の両面から注目が高まっている。 (押川恵理子)

◆停電に備え 金沢工大などが整備

 能登半島地震が起きた1月1日、石川県野々市(ののいち)市の金沢工業大の体育館に、近隣住民や学生ら約40人が一時避難した。体育館がある扇が丘キャンパス(約18ヘクタール)にマイクログリッドが導入されている。大学とNTTアノードエナジー(東京)が2年かけ、太陽光発電、蓄電池、EV、EV急速充電器、それぞれの電気を効率的に融通する仕組みを整備。昨年11月から本格稼働し、キャンパス内の複数施設に電気を供給している。
 体育館など2カ所に設置した太陽光発電設備の能力は計160キロワット。年間の発電量は一般家庭42世帯分の年間消費量に相当する177メガワット時を見込む。事業を担当する金沢工業大の泉井良夫教授は「再生可能エネルギー地産地消で、脱炭素を推進する人材や地域産業の育成にもつなげたい」と話す。
 
金沢工業大扇が丘キャンパスのEV充電器前で学生と話す泉井良夫教授(左)=同大提供

金沢工業大扇が丘キャンパスのEV充電器前で学生と話す泉井良夫教授(左)=同大提供

◆直流のまま 国内初の方式を採用

 最大の特徴は、太陽光発電による電気を直流のまま施設に供給すること。複数施設間での直流による電力融通は国内初という。電気は流れ方が一方向の直流、交互に変わる交流の2種類がある。電力会社からの電気は、電圧を変えやすいため交流を採用している。パソコンなど小型の家電製品は変換器で直流に変えている。変換時に一部が熱となって失われるため、直流のまま使えば電気の損失が減る。また一般的に消費電力は直流が交流より約20%少ない。
 同大は二酸化炭素(CO2)排出量を、設備導入前比43%に当たる年間175トンの削減を見込む。環境省の2022年度調査によると1世帯の年間排出量は平均2・57トンで、68世帯分の削減に相当する。
 直流の強みは停電のしづらさ。電話は安否連絡など停電時の利用も求められるため、直流を電源に使っている。NTTアノードエナジー太陽光発電の普及や自然災害の激甚化を踏まえて、培った直流システムの構築や管理の技術力を避難所にも役立てていく。
 同大はマイクログリッド用に、いずれも直流の380ボルトと1500ボルトの2種類の電線を設置した。直流は停電しづらい分、切断の必要時にも電気を止めにくく、電圧が高いほど安全性への配慮も求められる。整備・運用のコスト抑制も課題だ。同社スマートエネルギー本部の担当部長、小長野(おながの)孝之さんは「この事業で得たノウハウを広く展開し、非常時に電気を使える安心を届けたい」と話す。
 環境省の脱炭素先行地域に選ばれた73地域のうち14地域も同大と同様、自前の電線(自営線)を設置するタイプのマイクログリッドの構築を進めている。同省の担当者は「先行地域をきっかけに取り組みが広がりつつある」と述べた。

◆住宅向けも関心高まる V2H(ビークル・ツー・ホーム)システム

EVから取り出した電気を住宅でも使えるシャープのV2Hシステム=東京都内で

EVから取り出した電気を住宅でも使えるシャープのV2Hシステム=東京都内で

 一般住宅でも、非常時などに電気自動車(EV)などから取り出した電気を家庭でも使える「V2H(ビークル・ツー・ホーム)システム」への関心が高まっている。市場規模はまだ小さいが、需要の伸びを見込む企業の参入が相次ぐ。
 シャープ(大阪)も、太陽光発電と蓄電池、EVをまとめて制御できるシステムを3月下旬から提供している。うちEVから住宅へ電気を送る変換器は小型かつ軽量で住宅の壁面にも設置できる。担当者は「電気代の節約に加え、災害からのレジリエンス(回復力)の観点からも注目されている」と話した。
 V2Hシステムの機器などの導入費用は工事費込みで70万~200万円程度。国や自治体の補助金が使えるケースもある。東京都は太陽光発電、EV、充電器の3点導入ならば上限100万円を、それ以外は費用の2分の1、上限50万円を助成する。

<マイクログリッド> 太陽光など再生可能エネルギー由来の電気を、蓄電池などと組み合わせ効率的に供給する小規模な電力網。電力需給を予測しながら供給から利用まで全体を最適化する「エネルギーマネジメントシステム」で運用する。エネルギーの地産地消につながり「地域グリッド」とも呼ばれる。事業者が自ら電力用の電線(自営線)を敷く。平時は電力会社の配電線とつながり、大規模停電時は切り離して自営線で電気を供給する方法もある。

◆今月のポイント

・停電時に自前の電力網で電気を融通する仕組みで災害対応も強化
・蓄電池やEVとの連携で再生可能エネルギーを有効活用
・エネルギーの地産地消で脱炭素にも貢献