◆「若手が幹事」の経験が途絶えた
東京商工リサーチは今月上旬、全国の企業にお花見や歓迎会の開催状況をアンケートし、4578社から回答を得た。調査結果によると、今年の開催率は29.1%と、昨年より1.2%改善したものの、コロナ禍前(19年)の51.8%を大きく下回ったままだった。
調査を担当した小川愛佳さんは「コロナ禍で慣例的な職場の宴会はやらなくてもいいという空気感ができたのも大きい。花見などは、新人や若手が幹事を担当することが多いが、コロナ禍でその経験が途絶えた。慣例的な行事は一度途絶えると再開は難しいのでは」との見方を示す。
実際に働く人たちはどう思っているのか。新緑に包まれた日比谷公園(東京都千代田区)で弁当を食べていた団体職員の女性(34)は「(転職する)前の会社では毎年花見があった。宴会は楽しかったけど、若手が片付けをするので面倒だった。今の職場は花見はないけど、何の問題もない。なんで会社で花見やってたんだろ」と笑った。鋼材メーカーで働く入社3年目の男性(26)は入社以来、会社の花見はないといい、「上司と飲みながらじゃ桜を楽しめなさそう」と答えた。
◆7割が抱く「昭和のイメージ」
キャリアに関する情報を分析する「Job(ジョブ)総研」が3月に公表した社会人約600人を対象にした調査でも、全体の60.7%が職場の花見には「参加したいと思わない」と回答。理由に「プライベートを優先したい」「休日を使いたくない」などを挙げた。
全体の77.1%が職場の花見に「昭和のイメージ」を抱いており、今後は「無くなっていくと思う」と答えた人が85.8%に上った。ジョブ総研の堀雅一室長は「コロナ禍による飲み会や外出の制限で、『飲みニケーション』に対する意識は激変した。参加意欲も低く、今後なくなっていくと考える人は多く、職場の花見文化は衰退傾向にある」と話す。
◆花見の経済効果は「アレ」の13倍
上司や同僚と行う花見の存続は厳しそうだが、花見自体は活況だ。位置情報分析サービスのクロスロケーションズ(東京)が、匿名化されたスマートフォンの位置情報データを分析したところ、今年は東京や大阪、名古屋のお花見スポットの人出が昨年のほぼ2倍になっていた。
経済効果も高い。関西大の宮本勝浩名誉教授(理論経済学)は今年の経済効果は昨年の約1.8倍となる「1兆1358億円」と試算した。消費者が購入する弁当や酒、土産などの直接効果や、弁当の材料費など間接的な波及効果を分析。昨今の物価高や、5類移行で多くの人が外出するようになったことに加え、円安で訪日外国人が昨年より約3割増えたことなどが、数字を押し上げた。
新たな展開を迎えた花見文化。宮本名誉教授は、昨年セ・リーグで阪神が優勝した経済効果が約872億円だったことを引き合いに「今年のお花見と同等の経済効果を生むには、阪神は13回優勝する必要がある。いかにお花見の経済効果が大きいかが分かる」と指摘し、こう続ける。「たった2カ月足らずで日本にこれだけの経済効果をもたらす、世界に誇る観光資産だ」
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