泉田裕彦氏、知事在任中に出くわした東京電力の「ウソ」 再稼働の判断に必要なことがある 柏崎刈羽原発(2024年4月19日『東京新聞』)

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<再稼働を問う 新潟県知事経験者インタビュー㊦>
 
 東京電力柏崎刈羽原発新潟県)の再稼働に向けた動きについて、新潟県知事を経験した衆院議員2人に聞く連続インタビュー。2回目は泉田裕彦氏(自民党、比例北陸信越)に語ってもらった。(宮尾幹成)
 
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新潟県知事の米山隆一衆院議員
 
◆「30キロ圏には40万人の住民がいる」
 
—政府が県に再稼働の同意を要請した。判断の機は熟しているか。
 
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柏崎刈羽原発再稼働に対する県民の意向確認について話す泉田裕彦新潟県知事=東京・永田町の衆院第2議員会館
 
 熟していない。2007年の中越沖地震や11年の東日本大震災で明らかになった課題に対処できていない。やるべきことをやっていないのが今の段階だ。
 (自然災害と原発事故の)複合災害で屋内退避が行われた時に、電気・ガス・水道のどれか一つ止まれば煮炊きはできない。道路の復旧はどうするのか。雪が降っていたら誰が除雪するのか。こうしたことを全く決めていない。大混乱が生じるのは火を見るより明らかだ。
 (広域避難計画策定が義務づけられている)30キロ圏には40万人の住民がいる。何万人もの被災者への対応を自衛隊だけでできるというのは幻想で、民間との役割分担が必要だが、こういうことも考えていない。
 
◆やるべきことをやらないから「今、意思を問うたところで…」
 
 —知事が県民の意思を確認するのは、どんな方法が望ましいか。花角英世知事は「『信を問う』」と述べている。
 その議論をしたら一人歩きして、やるべきことがこんなにあるというメッセージが伝わらなくなる。事故になれば何が起きるかを県民に伝えた上で、どんな体制を組むかが先だ。今、意思を問うたところで、分からない人に聞くことになり、賛成する人も反対する人も不利益になる。
 超党派の地方議員グループが、再稼働の事前同意の対象を、避難計画の策定が義務づけられている30キロ圏内の全自治体に広げるよう求めている。この動きをどう見るか。
 県がやるべきことをやらないで逃げているから、こういう声が出てくる。やるべきことをやった上で、市町村に負荷をかけないようにしていれば、また別の風景が見えるかもしれない。
 東京電力原発事業者としての信頼性は。
 ない。ゼロだ。福島第1原発事故で4号機が爆発して少し落ち着いた後に、柏崎刈羽の幹部に説明に来てもらったが、メルトダウン炉心溶融)しているんでしょうねと聞いたら、していないと。最初から分かっていたはずなのに、原発立地県の知事にこういううそをつく。
 —そもそも、柏崎刈羽の再稼働は必要か。
 やるべきことをやっていないのだから、それも議論する段階にない。
 泉田裕彦(いずみだ・ひろひこ) 1962年、新潟県加茂市生まれ。通商産業省(現経済産業省)を経て、2004年10月〜16年10月に新潟県知事。13年2月に有識者会議「原発の安全管理に関する技術委員会」を設置し、東京電力福島第1原発事故について県独自の検証を始めた。17年衆院選自民党公認で立候補し初当選。現在2期目。
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◆前提崩れた「屋内退避」…原発の避難計画の現状は
 
 原発30キロ圏内の自治体に義務付けられている避難計画には、深刻な事故が起きた際、自治体から住民への情報伝達、甲状腺被ばくを抑えるヨウ素剤の配布方法、避難先までのルートや交通手段、介護が必要な人への対応などが記される。新潟県柏崎市が公表する避難計画はA4判で120ページになる。
 自治体が避難計画を作るに当たっては、原子力規制委員会が示す原子力災害対策指針を参考にしている。
 指針は5キロ圏内は即時避難で、5〜30キロ圏はいったん屋内退避し放射線量を基に段階的に避難すると示す。
 ただ、能登半島地震では、水道や電気が止まり、住宅が倒壊すれば、屋内退避は困難であることが改めて浮き彫りになった。仮に、学校などに避難し屋内退避できたとしても、原発事故で水や食料などが十分に届くのかは分からない。
 規制委は2月、指針の見直しに着手する方針を示したが、「屋内退避できる」との前提で議論することとした。この見直し議論でも1年近くかかるとされる。
 柏崎刈羽でいえば、屋内退避の問題に加え、周辺が豪雪地帯で冬場の避難は困難を極めるとみられる。そうした対応が決まっておらず、内閣府は避難計画を最終的に了承していない。(荒井六貴)