「オランダ人常食にパンというものを食するよし…(2024年4月19日『毎日新聞』-「余録」)

江川英龍のパン作りを記念した「パン祖のパン祭」を前に伊豆半島をかたどったパンを手にする関係者=静岡県伊豆の国市長岡のあやめ会館で2019年1月9日午後6時56分、石川宏撮影

江川英龍のパン作りを記念した「パン祖のパン祭」を前に伊豆半島をかたどったパンを手にする関係者=静岡県伊豆の国市長岡のあやめ会館で2019年1月9日午後6時56分、石川宏撮影

 「オランダ人常食にパンというものを食するよし。何をもて作れるものにや」「小麦の粉に甘酒を入れ、練り合わせて蒸焼(むしやき)にしたるもの也(なり)」。江戸時代の蘭学(らんがく)者、大槻玄沢(おおつきげんたく)が記した「パン問答」である▲長崎オランダ屋敷のレシピらしい。それを学んだ伊豆韮山(にらやま)の代官で軍学者江川英龍(えがわひでたつ)が1842年4月12日に初めて兵糧用パンを焼き上げたという。毎月12日が「パンの日」、江川が「パン祖」となった由縁だ

▲以来180年余り。パンは日本人にとっても常食になった。世帯当たり年間消費額はコメの約2万円に対し、パンは約3万2000円。朝食だけでなく夕食もパンにワインという人が増えているのではないか

▲パン作りの腕を競う国際大会で日本人が活躍し、行列のできるパン屋も少なくない。だが、このところ異変が起きている。昨年度のパン屋の倒産は過去最多を記録したという

▲コロナ禍での支援措置が打ち切られる一方、ロシアのウクライナ侵攻以降の小麦価格や燃料費の高騰で経営環境が悪化した。そこにバブル期以来の歴史的円安や中東での緊張の高まりが追い打ちをかけている

▲さらなる物価高騰に見舞われてもコスト上昇分を価格に転嫁することは簡単ではない。それがパン屋さんだけでなく、多くの飲食店や中小企業の実情だろう。インバウンド客と輸出企業だけが恩恵を受けるような円安が続いては困る。ワシントンに主要20カ国・地域(G20)の財務相中央銀行総裁が集まった。即効性ある対策はないものか。