小学5年の女児(11)に自ら撮影させた性的な動画を交流サイト(SNS)を通じて送るよう要求したなどとして、兵庫県警は2月、映像送信要求などの疑いで、神戸市の無職の男(31)=児童買春・児童ポルノ法違反などの罪で公判中=を逮捕した。逮捕は5度目。10代の少女ばかりを狙い、信頼関係を作った上で巧みに性への興味を刺激しながら思春期の少女たちを手なずける「グルーミング」の手口で、性的な動画の要求や、性行為の撮影などを繰り返していた。子供の純粋な気持ちを踏みにじる男のやり口はあまりにも卑劣だった。
【イラストでみる】巧みに性への興味を刺激しながら思春期の少女たちを手なずける「グルーミング」の手口
「ちゃんと俺の名前呼びながら好きっていいながら同じ動画撮って」 女児が、下腹部に指を伸ばす姿を自ら撮影した映像。LINE(ライン)を通じてこの動画を受け取った男は、さらにこんな甘言を用いて、繰り返し性的な動画を送信するよう女児に要求していた。 男は県警生田署に2月6日、わいせつ目的面会要求や映像送信要求などの疑いで再逮捕され、同署によると、容疑を認めている。
■昨年7月に新設「性的グルーミング罪」
両罪は、性的な目的で16歳未満の子を手なずける「性的グルーミング罪」として昨年7月に改正刑法で新設された。少年課によると、同罪を適用した兵庫県内の逮捕者は初めてという。
再逮捕容疑は昨年8月、当時小学5年の女児(11)に、16歳未満と知りながらSNSを通じ面会を要求。同9月、この女児にわいせつな画像を送信するよう要求し、女児に撮影させた画像と動画を送らせたとしている。
起訴状などによると、男が女児のSNSをフォローし、昨年8月ごろに知り合ったとみられ、ラインを通じてやり取り。性的な話題で盛り上がり、「会いたいな」「いつか会えるなら会おう」などと複数回にわたって、2人で会うことを要求していたという。
さらに女児がやんわりと面会を拒むと、女児に対し、男の下半身を写した動画を送信。年端もいかない女児に自身の下半身を撮影した動画と画像を送らせた上で、「ちゃんと俺の名前呼びながら好きっていいながら同じ動画撮って」「今撮ってよ、俺のために」「それができるまで仲直りじゃないからねー」などと要求を繰り返していた。
■驚く捜査員「おとなしそうな子ばかり」
最初の逮捕は昨年11月。当時12歳の別の少女に現金1万5千円を支払い、神戸市内の宿泊施設で児童買春したとして、児童買春・ポルノ禁止法違反容疑で逮捕された。その後、携帯電話の解析などの捜査を行ったところ、この少女を含む当時11~16歳計6人に対し、性行為やその動画撮影などの犯行に及んでいたことが判明したという。
ある捜査関係者は「被害に遭った少女はみなおとなしそうなまじめな子ばかり。なぜこんな事件に巻き込まれたのか」という。
性的グルーミングとは、もともと動物の毛づくろいを意味する英語に由来する。子供と親しくなり、信頼関係を築いた上で、その信頼を巧みに利用して子供に性的な接触を図るのが特徴とされる。
警察庁の統計によると、令和4年に児童ポルノ事案の被害に遭った小中高生の数は1487人に上り、このうち自ら撮影した画像に伴う被害者数は577人と約4割を占めた。これとは別に、SNSに起因して事件に巻き込まれた被害児童の数は、平成25年には1293人だったが、令和元年には2倍近く増え、過去最多の2082人に上り、4年も1732人と高水準で推移する。
塾などに通う際の連絡手段として、小学校低学年でもスマートフォンやタブレットを所持する子供が増えている。さらにSNSの急速な普及ともあいまって、児童がオンライン上で知り合った大人からの性被害に遭うケースが相次いでいる。
■大人の不審な行動、見極めを
子供への性犯罪やグルーミングの手口に詳しい追手門学院大心理学部の桜井鼓(つつみ)教授(犯罪心理学)によれば、オンラインを通じた性的グルーミングには、5つの特徴的なプロセスがあり、加害者は①ターゲットを選ぶ②子供に接近し、周囲から分離する③信頼関係を醸成する④性的話題への抵抗感をなくさせる⑤加害後に口止めし、関係を維持する-といった共通した行動を取るとされる。
加害者は、同じ趣味の話題をしたり、被害児童を褒めたりしながら、信頼関係を醸成。被害児童の承認欲求や愛着につけこんで、徐々に性的な話題や行為に持ちこんだ上で、「2人だけの秘密」「性教育」などと口止めし、児童自身の罪悪感や羞恥心をあおることで犯行が発覚しないよう仕向けるのだという。
桜井教授は「グルーミングは、親身に話を聞いてくれたり、褒めてくれたりするまともな大人とのやりとりとも似ているため、子供にとっては見極めが難しい」と指摘。その上で「分別のある大人は性的な話題や口止めは絶対にしない。まずは見知らぬ人とは会わないようにすることが必要だが、知り合った大人がこうした不審な行動をしてきた段階で、身近にいる家族や学校の先生に相談してほしい」と話している。(吉国在)
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