県の奨学金返還支援 県内定着への成果期待(2024年4月10日『秋田魁新報』-「社説」)

 県内企業に就職する大学卒業者の奨学金返還について最大120万円助成する制度を、県は県内企業と連携し、創設した。県と就職先の企業が助成金を出し合い、年20万円を上限に6年間支援する。

 助成金のうち中小企業の場合は県が3分の2、大企業には県が半分を負担し、残りを企業側が支出する。大卒者の経済的な負担を軽減し、県内企業への就職を促すことが狙いだ。来春卒業予定の学生らを対象に、既に制度のPRを始めている。

 県には奨学金の返還を3年間で最大60万円助成する制度もある。これを継続するとともに、企業と連携する新たな制度の創設によって、支援の拡充を図ることにしたという。人口減少が急速に進む中、一人でも多くの若者の県内定着を図りたい。就職希望の学生に対して新制度を十分に周知し、県内就職の増加につなげていくことが期待される。

 奨学金は経済的に余裕のない学生にとって勉学の機会を確保する大切な手段だ。しかし卒業後に数百万円規模の返済を抱え、負担に苦しむ若者は少なくない。結婚や出産など人生設計の重荷になっているとの調査結果もある。

 就職先は職種や勤務地などを考慮して選択する例が多いだろう。複数企業から内定を得て選ぶ際などは、奨学金支援の有無やその内容が決め手になるかもしれない。

 人手不足が深刻化し、人材の獲得に苦労している企業は多い。奨学金の返還支援を学生へのアピール材料にし、必要な人材の獲得に役立ててほしい。

 県は5月末までの期限で参加企業を募集している。4月1日時点の参加は51社。県の就活情報サイトで公表しており、建設18社(35%)、製造10社(20%)、卸売・小売9社(18%)などが名を連ねる。

 事前のアンケート結果などから30社余りと見込んだ県の想定は上回っているが、人材確保のためにはこうした制度が必要と考える企業はまだあるのではないか。学生にも選択肢は多い方が望ましい。

 学生に対しては就活サイトや就活イベントなどでの呼びかけに加え、若者に身近な交流サイト(SNS)でのPRが不可欠ではないか。まずは制度の存在を知ってもらうことが重要だ。

 県によると、他県では助成金の額が120万円を超える制度を設けている例もあるが、業種や募集人数が限定されていることが多い。本県の場合は業種や募集人員にも制限がないのが特徴だ。その点をしっかり周知してもらいたい。

 県は今回の支援制度を当面継続する方針だ。官民で多額の支出が想定される事業であり、それに見合った具体的成果を上げることが大切だ。学生のニーズを探りながら、支援の在り方を今後柔軟に見直していく姿勢も必要だろう。