「悪意のみの歴史解釈に限界」静岡大の楊海英氏 陸自の「大東亜戦争」表記問題視報道で(2024年4月9日『産経新聞ース』)

 
静岡大の楊海英教授=9日午後、東京都千代田区(奥原慎平撮影)

中国・内モンゴル自治区出身で日本に帰化した静岡大の楊海英教授(文化人類学)が9日、東京都内で産経新聞の取材に応じ、陸上自衛隊の部隊がX(旧ツイッター)で硫黄島(東京都小笠原村)を「大東亜戦争最大の激戦地」と表記し、その後に撤回した問題について「一種の言論弾圧だ。国民の生命と財産を守る自衛隊に対し、過去の戦争を持ち出して批判めいて報じるのはやめてほしい」と語った。部隊が5日に「大東亜戦争」の表現を用いると一部の報道機関などが問題視し、8日に該当する表記を改めた経緯がある。一問一答は次の通り。

民族自決運動の側面も

──陸自第32普通科連隊が5日、硫黄島で執り行われた日米合同慰霊式を巡り「大東亜戦争最大の激戦地硫黄島」とXに投稿すると、「大東亜戦争」表記について「政府は公式文書では用いていない」などと報じられ削除に追い込まれた

陸自幹部の制服姿での靖国神社参拝が問題視されたこともあるが、自衛隊の行動について、過去の歴史と結び付けて報道するのは問題だと思う。国民の命と財産を守る存在に対して、いちいち過去の戦争を持ち出して、批判めいた報道はやめてほしい。一種の形を変えた言論弾圧ではないか」

──「大東亜戦争」は先の大戦を巡り、戦前に政府が閣議決定した名称だ

閣議決定した以上、戦争当事国の正式な認識だ。『侵略戦争』『不義の戦争』などは戦後の戦勝国の裁判史観によるものだ。その米国も1952年のサンフランシスコ講和条約発効で(連合国軍総司令部=GHQが公文書に『大東亜戦争』表記を禁じた『神道指令』が失効し)軌道修正している。戦後日本の言論界の一翼が東京裁判史観で戦争当事国の閣議決定を批判するのは不公平だ」

──先の大戦を巡る評価はさまざまだ

「同じ戦争でも当事者が違うと当然認識は異なる。日米でも、大東亜戦争の舞台となったフィリピン、インドネシア、モンゴル、中国でも、それぞれで違う。モンゴルにとっては一種の世界戦争で、それを通じて中国から独立を図ったというもの。中国は抗日戦争といっているが、戦時中には定義していない。西洋諸国の植民地だったインドネシアやフィリピンなどは一種の解放戦争とみる場合もある。世界戦争の中の民族自決運動の側面がある」

国民世論の分断に懸念

──大東亜戦争の響きはどう映るか

「日本にとってジャストミートする響きではないか。イデオロギー的に偏っているとも思わない。『先の戦争』といえば、どこまで先なのか分からないし、そもそも、歴史はすべて悪意で作られているとみるべきではない。台湾人も満州人もモンゴル人も概して日本時代を評価した。侵略戦争のみでは全体像はみえない」

──今回の問題で懸念されることは

「国民世論の分断だ。本来、日本人社会は調和がとれて、お互いに配慮して、争いごとを避けるものではなかったか。にもかかわらず昨今のSNSでの表現は過激化している。歴史を持ち出した報道はSNS上で暴走し、独り歩きし、日本国内の世論や国民の意識の分断を促している」

──大東亜戦争を使ったら戦争を美化していると思うか

「思わないよ。『モンゴル帝国はすごかった』といって、当時の侵略を美化しているモンゴル人は1人もいない。過去の歴史的出来事をすべて悪意でもって解釈することには限界がある」(聞き手・奥原慎平)

波紋を広げる「大東亜戦争」表記

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