家計への逆風は切実(2024年4月9日『山形新聞』-「談話室」)

▼▽高級ウイスキーとはいえ1本36万円の時代が来てしまった。サントリーの「山崎25年」(700ミリリットル)は4月から20万円の値上げ。生産量が限られた「幻のボトル」ではあるが、見つけたとしても、まず手が届かない。

▼▽岸田文雄首相はその円熟した香味を知るようだ。自民党政調会長だった4年前、テレビ局に宿舎を公開した。政界きっての酒豪と評されるだけあって、部屋には「山崎25年」などの高級酒が数本並んでいるのが見えた。ただ、カメラの前では琥珀(こはく)色のグラスを傾けなかった。

▼▽同居する息子2人と夕餉(ゆうげ)を囲むために岸田氏は帰宅前、スーパーでネギや肉を買い込んでいた。「別に不思議な光景ではない」と笑う。家庭では買い出し担当とのこと。次男が鶏鍋をこしらえ、ビールで乾杯。酒のラインアップとは対照的に、どこまでも庶民派を演出した。

▼▽この春、食品約2800品目が値上げされた。家計への逆風は切実だ。買い出しが常だった岸田氏ならば、庶民の暮らしに思いが至るはずでは-。いや、そんな期待も詮ないかと、「裏金問題」への対応を見て考えた。あまりにも、庶民の感覚とかけ離れているようだから。